ふづか希祥様から頂いた作品です。




大分日が落ちるのが遅くなってきたと思う。
もう7時近いというのに、まだ空は明るく夜が来ることはないような気持ちに陥る。
1日は24時間のはずなのだが、夏になるとそれ以上の時間が流れている。
その分暑さも一入・・・
じっとりと肌に貼りつく髪を額からはがす。
中途半端な髪の毛の長さというのは夏の暑さをよりいっそう増徴するもので、自分で自分の首をしめている気がしてならない。
結い上げるわけにもいかず、これ以上短くするという勇気もなく、効果が無いと知りつつも耳の後ろの髪の毛をかけて気を紛らわせる。
「いつまで待たせる気かしら。」
机の上にかじりつくように座っているコナンの頭を見下ろし、ため息を吐いた。
かれこれ2時間。
すぐに終わるからという彼の言葉を信用して、待ったのが間違いだった。
まさかここまで待たせるとは思っていなかったという自分の判断にも呆れてしまうが、それ以上にそんなコナンに付き合ってしまったという時点で、馬鹿だと思った。
「あともうちょっとだから、待てよ。」
哀のそんな様子にあわてる訳でもなく、まぁ待て、すぐだからすぐだから。と呪文のように何度も唱える。
何度聞いたセリフだろうか。
「反省文なんて、そんなのもらう方が馬鹿なのよ。」
「一度は貰ってみたい反省文っていうのが、俺の家訓なんだよ。」
「そんな家訓、どこの家庭にもないわよ。」
「人生経験豊富になる為には必要な一歩。」
「はいはい。」
「・・・本当だぜ? つか、俺を置いて帰るなよ?」
机にかじりついて原稿用紙を見つめていたコナンが恨みがましく哀を見上げる。
反省文。
そんなものが未だにあるとは知らず、実際目の前で書いている様子を見ていても、これはどっきりカメラか何かではないかと隠しカメラをつい探してしまった。
コナンのサボりは本当に常習犯で、何度注意を受けても止める事はなく、とうとう校長から楽しい宿題を貰う羽目になっていた。
「今日中にさっさと終わらせて、楽しい夏休みを迎えようっていう俺の心意気を賞賛しろっつーの。」
「そんな心意気より、サボらない心意気を推奨したいわ。」
よし、終わった!と、両手を挙げて身体を起こす。
どれどれ、と書き終わった原稿を手に取り目を通す。
「・・・こんなので許されるのかしら。」
「おぉ、中学生らしい文章だろ。」
「人格を疑うわね。」
十数ページに及ぶ原稿をコナンの顔に押し付けて、早く先生に出してきたら、私はもう帰るからとかばんを手にする。
「あ、おいっ!提出すっから、ちょっと待ってろって!」
勢い良く立ち上がると、教室から飛び出して行った。
「まったく・・・こんなもの書くようなことするからいけないのよ。」
と、手にある原稿用紙を哀は眺め、
「・・・渡すものを持たずに、どうやって提出するのかしら、あの人。」
仕方なしに彼を追いかけるために教室を出た。

















All you have to do is flatter him.



















「もう真っ暗よ。」



日が暮れるのが遅くなったとはいっても、時間がくると急速に闇が訪れる。
とっぷりと暮れてしまった空を眺めて、昇降口を出る。
もうまわりには生徒のせの字もない程、しんとしている。
「サンキュ。」
「もうやらないわこんな事。」
「お礼にいいとこ連れてってやるよ。」
「それはまた職員室とかいう所ですか?もしくは、原稿用紙を買いに文房具屋さんとか言わないでしょうね。」
「・・・・・・そこまで俺をいじめたいですか。」
「私はさっきいじめられたわよ。」
待たせすぎよ本当に。と自分の手にあるかばんをコナンに押し付け、ハイ、あとはよろしく と歩き始める。
「待てよ、今日はチャリで来てるからお前後ろ乗れ。」
持たされたかばんを再度哀に渡すと、後に座れ。とどこの植木に隠していたのか青い自転車が出てきた。
「珍しいわね、自転車で来るなんて。」
「遅刻しそうだったんだよ。」
「あらあら、もしこれで遅刻してたら反省文も倍だったかもね。」
「勘弁してくれよ。」
ほとほと今回は失敗したと反省している様子で、自転車をまたぎ、哀が乗ったのを確認すると、力強くこぎ出した。
日がくれじっとりした風が自転車の動きで早く流れる。
風でなびく髪を押さえ、その心地よさに哀は目をつぶった。








「到着!」



どこをどう行ったのか、いつの間にか彼の言う いいところに連れてこられたらしい。
「お祭り?」
「そ、杯戸祭り。ここじゃ有名だろ?で、今日だって歩美が言ってたの思い出したから。」
無邪気に哀に笑いかけ、自転車を降りて近くの駐輪場に止める。
夏になるとどこもかしこもお祭りをする所がある。
そういえば地元の自治会でも来週お祭りをひらくと言っていたのを思い出す。
「お祭りなんか今まで来たことなかったわ。」
「じゃ、お祭りデビューじゃん。つーかお前、お祭り来た事ないの?一度くらいはあるだろ。」
「・・・・・・ないわね。昔から海外にいたし、研究所に入り浸りだったから。」
「そっかぁ、連れてきて良かったな。」
「どうかしら、この人ごみはやめてもらいたいんですけど。」
通路の両側には出店が並び、それを買うために人が留まる。
動くはずの人の流れがその為にうまく流れず、余計にひしめき合っているのが入り口から見ても分かった。
出来れば人ごみは避けたいと思うのが哀の心理。
入り口から進もうとしない哀を見かねて、
「これも経験!」
とコナンは哀の手を取ると人の群れに飛び込んで行った。

苦手な人ごみの中もコナンに連れられているおかげで、つまずくこともなくスムーズに進むことができた。
その分彼が苦労しているという事も、繋がれた手から感じ取ることができて、少しくすぐったい気持ちがした。

あれもうまいぜ
これもやってみろよ
灰原、こっち!

何がそこまでうれしいのか、満面の笑みを浮かべて指差すコナン。
あっという間に祭りの通りを過ぎ、丘の上まで登ってきていた。
両手にはいろんな食べ物やおもちゃ。
哀一人では食べられないと告げると、博士もいるし俺もいるからいいんだよと、また楽しそうに笑う。
それにつられて、そうね。と哀も微笑む。
















「あ・・・」














― 見上げるとそこには大きな華 ―
















時間はもう8時を過ぎていた。
この祭りの恒例行事の花火が二人の真上に咲いていた。




「綺麗だな。」


「そうね。」


「また来年も来るか?」


「また反省文を書くの?」


「反省文と祭りはセットなのかよ。」


「あなたが連れてきてくれるならね。」


「じゃ、大丈夫だな。」





絶対来年も俺が連れて行くからな。そう言うと、哀の手を取り歩き始めた。




END 



サイト管理人より



ふづか希祥様の旧サイト「103ROOM」にてキリ番1000をゲットし、リクさせて頂いた作品です。
「コ哀(年齢お任せ)で夏祭り(花火でも可)」とリクさせて頂いたのが7月10日だったにも関わらず、その約一週間後には完成品を頂いてしまったという@汗(見習いなさいよ、自分^^;)
それにしても反省文を書く羽目になっても全く反省の色のないコナンがいかにもらしくて最高です。
ふづか様、素敵なお話をありがとうございました。