森絢女様から頂いた(強奪した?)作品です。


コナン


新一は自分の家の門の前でたっぷり3分は立ち尽くしていた。
いや、見下ろしていた。
何を?
籐製の篭を…。
そして、その中で蠢いているその存在を…。
おもむろにしゃがむと微かに動くその布をそっとめくる。
そこには…、予想通りというか、全く予想外というか…。
新一は立ち上がってその篭を抱え上げると門を入っていった。


「で、この篭が門の前においてあったってこと…?」
志保は篭の中の布をめくりあげて中を確認すると新一に尋ねる。
平次と快斗も同時に後ろから覗き込む。
「手紙…ついてた…」
そう言うと新一はそれをテーブルの上に投げ出す。
快斗がそれを拾って読み上げる。
「工藤邸にお住まいの皆様
    御迷惑とは存じますが、皆様で育てて下さいますようお願いいたします」
2度、確認するように読み上げると快斗はその手紙を平次に渡し、平次もそれに一瞥をくれて志保に手渡す。
文字はワープロの文字で、筆跡から書いた人間を割り出すのは無理と思われた。
「で、身に覚えのあるやつは正直に言うた方がえぇぞ」
「じゃぁ、まず服部から言わなくちゃ」
「なにぃ〜!! 一番怪しいのは黒羽お前やろが」
と、平次が大声をあげた途端その布にくるまれた存在が泣き声をあげた。
志保は慌ててその存在を抱き上げると立て抱きにして背中を優しくポンポンと叩き落ち着かせる。
平次は吃驚したように口を噤むと、そっと覗き込んで、ため息を一つ…。
「ちなみに、生後どのくらいなんですか?」
「そうね…首は座っているし寝返りもうてるみたいだから4〜5ヶ月ってところじゃないかしら?」
「じゃぁ、14〜15ヶ月くらい前の『身に覚え』だよね…」
「違うわよ。妊娠週数って4週間で1ヶ月だし、最終月経の初日から数えるから実際に妊娠したのは妊娠2週から3週の間。だから、大体12〜13ヶ月くらい前って思ったらいいかしら?」
そして快斗と平次は考え込む。
「でも、俺がその頃関係を持った女性って、みんなよく会うけどお腹大きかった女性はいなかったから、俺じゃないと思うよ」
「それやったら、俺も一緒や。工藤はどうやねん」
「オレか? …志保いつ産んだんだ?」
「莫迦、私の訳ないでしょう?」
「じゃぁ、オレじゃないな。コナンになって以降で関係を持った女は志保だけだから」
そして4人は目を見合わせると、その存在…白いベビー服を着た赤ん坊の方をまじまじと見る…。
「警察に連絡したほうがいいかな?」
快斗がとりあえずという感じで提案する。
「そうはいうても、もし置いていったのが知り合いやった場合なぁ…」
「『工藤邸にお住まいの皆様』って書いている以上4人のうちの誰かにというより、この家に住んでる人間だったら誰でもよかったと考えてもいいと思うから、目暮警部にだけは知らせてもいいんじゃないか?」
「警察に正式に届け出たら乳児院に連れていかれるだけだし、だったらここで面倒みてあげてもいいかもしれないわねぇ…」
志保はそう言うと赤ん坊を床に敷いた毛布の上に寝かせ、篭の中を調べる。
「紙おむつ5枚と、スティックタイプの粉ミルクが10本。着替えが2セット。ほ乳瓶が1本か…。…ん?」
「どうした?」
志保は着替えの下に入っていたノートを取り出す。
「育児日記…みたいね…」
3人は慌てて後ろから覗き込む。
「5月4日生まれ…男の子…出生体重2743g。…名前は…」
そこに書かれていた名前を読んで4人は一斉に「コナン?!」と叫んだ…。
「おい、絶対これ誰か知り合いだ」
「それもかなり内部事情に詳しい…」
「思い当たる女いうたら誰がおるねん!」
大声に驚いたようにまた泣き始めるその小さなコナンを志保は抱き上げるが、今度はあやしてもおさまらない。
志保は思いきってベビー服の股のボタンをはずす。
そして、おむつをはずして新しい紙おむつをあてがう。
すると少しだけ落ち着いたように小さな泣き声になったが、依然としてまだ泣き続けている。
「誰かミルク作って来て…」
志保の指示で3人は顔を見合わせるが、結局こういうことは快斗が引き受けざるを得ず、篭からほ乳瓶と粉ミルクを取り出すとキッチンに向かう。
「2人はとりあえず当面の紙おむつと粉ミルクとその他諸々必要そうなもの買って来て。あ、育児書も…」
一瞬引きつった顔を志保に向けた2人ではあったが、それが必至の状態と分かって慌ててこの場から逃げ出すようにして出ていった。
庭から新一のミニクーパーのエンジン音が聞こえて来ると、いつもと違って急発進していった。
「なぁ、名前のコナンはもう決まってるからしゃぁないけど、猫のコナンとどう区別するねん」
「どうって…。まぁ、なるようになるだろう?」
先ほどから赤ん坊に近付けないためにリビングに入れてもらえずガラス戸の向こうでにゃぁにゃぁ鳴いている2匹の猫を見返して、新一は答える。
「でも、誰がこんなことしたんだろうな?」
結局あまりにも内部事情に詳しい相手と言うことが分かった以上目暮警部に知らせることもかなわず、様子を見ると言うことに結論は出た。
とは言え、大人4人の住まいに赤ん坊用のベッドなどある訳もなく、赤ん坊はそのままリビングの床の上の毛布に寝かされている。
さすがにこのままずっといてもらっても困るので、親が見つかると言う期待をこめてベビーベッド迄は新一と平次は買ってこなかった。
「工藤に似てるよな。ほんまにお前身に覚えないんか?」
平次は疑いのまなざしを新一に向ける。
「あのなぁ、オレに似てるってことは快斗にも似てるってことだし、服部を白塗りにしたらオレにそっくりなんだから服部にも似てるってことなんだぞ」
そう言うと新一は反対に平次と快斗を半眼で見返す。
新一にそう指摘されては反論のしようがないのは2人とも分かっているので、明後日の方を向く。
その間志保は口元に手をやって何か考え込んでいたようだったが、ふっと席を立つと電話のところに歩いていき、受話器を取り上げるとどこかに電話をはじめた。
「何か心当たりがあるのか?」
新一の問いに答えず黙って呼び出し音を聞いている。
相手が出たのであろう、志保は名を名乗って赤ん坊が家の前にいたことを話し心当たりがないかと問う。
「…はい、…はい、あぁ、そうですか、じゃぁ2人で日本に…」
志保は後ろの3人のことなど気にせず話しているが、どうやら相手は海外らしい。
「えぇ、はい。分かりました、じゃぁそう伝えておきます」
そう言うと志保は受話器を置き、振り返って新一を見ると「貴方の弟ですって」と言った。
一瞬何のことか分からず点目状態になった新一だったがたっぷり3秒考えたあと「おふくろだなぁ〜!!」と言って気が抜けたようにテーブルに突っ伏した。
「まぁ、1年以上会ってなかったんですものね。妊娠してるとか出産したとかってことも分からなくても当然かも…」
志保はそう言うと赤ん坊を抱き上げてそのまま庭に通じる窓をあける。
「いくら顔見せの為に日本に帰国していらしたとは言え、吃驚させないで下さいね」と庭に向かって言うと、ちゃめっけたっぷりに有希子が現れた。
「だってぇ〜、20歳も歳の離れた弟を普通に会わせるのもなんだか照れくさかったんですもの」
「ったく何考えてんだよ」
「でも、志保ちゃんよく分かったわねぇ…。今晩中に分からなかったら明日の朝種明かしするつもりだったのに」
新一の言葉には耳もかさず有希子は志保から赤ん坊のコナンを受け取るとさっさとリビングに入って来てソファに座る。
「新一が『コナン』であったことを知っている人間で、赤ん坊を産む可能性のあるのは私と有希子さんしかいませんから」
そう素っ気無く言うと、夕方の秋風が赤ん坊に悪いのではないかと気にして窓を閉める。
「そりゃぁまぁそうよね」
そう言うとお腹が一杯になって満足したように眠っている2人目の息子コナンを愛おしそうに見つめる。
平次と快斗はそっとキッチンに移動すると、快斗はメーカーをセットして珈琲を煎れ始める。
「なんでまた今頃になって2人目なんて作った訳?」
新一は有希子に尋ねる。
「ん〜? だって新ちゃんがコナンちゃんだったの見て可愛かったから、もう一度あぁ言う子供を育てたいなぁって思ってね。それに、新ちゃんには志保ちゃんもいるし親から精神的にも自立しちゃったものねぇ…寂しいし」
と、言って笑う有希子は新一に隣に座るように指し示した。
「まぁ、そう言う訳で、これが貴方の弟のコナンよ」
まじまじと母親の腕の中に眠る弟と呼ばれる存在を見つめ、もう一度有希子を見返すと新一は「おめでとう」と言った。
有希子は「ありがとう」と答えて新一にコナンを抱かせる。
「かわいいでしょう? 貴方もこうだったのよ」
「ふ〜ん…」
「いつも死体とばかり向き合ってるんだから、生命力一杯の赤ん坊って言うのもたまにはいいでしょう?」
そう言うと有希子は立ち上がって志保の側による。
そして新一には聞こえない程の囁きで「だから早く新一に赤ちゃんを産んであげてくれると嬉しいわ。もちろん決めるのは貴女達だけどね…」と言ってウィンクひとつ。
志保は無表情でその言葉を受け止めると、やはり囁くように「時機が来てそれが必然なら自ずとそうなると思います。それがいつかは分かりませんけど…」と答えるにとどめた。


有希子と小さなコナンは1週間程滞在してアメリカに帰っていった。
新一と平次が買って来たベビー用品は兄から弟へのプレゼントと言うことで有希子が全てアメリカに発送した(もっともお金の出所は新一に仕送りをしている優作ではあるのだが)。
2人を見送ってリビングに戻ると新一は志保に「いつかは、オレ達も子供を持つかもしれないけど…」と言うと、志保はソファに座る新一を見返して、「まだ現実味の無い未来だわ…」と微笑んだ。
「そうか? 結構赤ん坊抱くのさまになってたし、志保って結構子供好きなんじゃねぇ?」
「…分からないわ…。可愛いとは思ったけど…」
そう答える志保の腕を引き寄せて、隣に座らせると、「でもさ、赤ん坊も結構いいよな。親達やあの小さなコナンはオレにとっての家族だけど、でも、それとは違うオレにとってだけの家族もやっぱり欲しいもんな」といって新一は久しぶりに自由に歩きまわれる許可が出て足下にまつわりついている猫のコナンと哀を抱き上げる。
「そうね、いつかね」
「ん…。でも、オレにとってだけの家族はもう1人はいるからな」
「え?」
「志保…、オレの家族だろ?」
「………そうね」
志保はそう答えると、改めて両親や姉を亡くして以降自分には家族はいないと思って生きて来た期間を思い出す。
そして新一と共に暮らし始めて、徐々に家族になっていったこの2年半を…。
新一の腕からコナンを抱きあげると、いつの日か、同じように新一の子を抱いている自分を想像する。
それは、具体的なヴィジョンとしては浮かび上がってくることはなかったが、それでもその想像をなすことを許されている自分を想って、志保は幸福を噛み締めていた。


サイト管理人より


「緋色の雪」において森絢女様が掲載してみえた作品でウチの弟コナン君シリーズの原点です。森様より転載の許可を頂いたので当サイトにアップさせて頂きました。森様には珍しく(?)コメディタッチの作品で、男三人の会話が笑わせてくれます。工藤家に第二子が出来るという発想は私には思い浮かばなかったので、初めて読ませて頂いた時から印象に残っていました。 で、勝手に成長させてしまったという@爆笑
私が書く新志に比べ二人が大人っぽいのは森様と私の精神年齢の差まんまって事で^^;)


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