居場所(ありか)



その日は事件が思ったより早く解決した事もあり、新一は目暮の申し出を断り事件現場近くの駅から電車で帰宅する事にした。
「ここのところ事件続きだったな……」
駅のホームで思わず呟く。帰宅時間が午前0時を回ってしまうという事もしばしばで、ここ一ヶ月は志保の顔を見ない日も多かった。
(もしあの時、蘭を選んでいたら……)
寝ずに待っていてくれただろうか?
別に志保に待っていて欲しい訳ではなかったが、つい不埒な事を考えてしまう自分に新一は苦笑した。
駅にアナウンスが流れ、電車がホームに滑り込んで来る。ドアが開くと大勢の人間が降りて来て新一は人波に流されそうになった。
「おっと」
慌てて体勢を立て直し、電車に乗り込もうとした時、突然、空間がぐにゃっと曲がったような錯角が新一を襲った。
(なん……だ?)



「……?」
次元の魔女と呼ばれる女はその『気配』を見逃さなかった。
「どうかしたんですか?」
バイトの青年が声をかけて来る。
「誰かが時空の狭間に落ちたみたいね」
女は古めかしい鏡を取り出すと、呪文のようなものを唱えた。
「……ふ〜ん、意外な人物ね。でも……これも必然なんでしょう」
女は面白そうに微笑むと、青年が持ってきたケーキを口に運んだ。



「んっ……」
気がつくと新一は草むらに倒れていた。
(あれ?オレ、駅で電車に乗ったはずだよ……な?)
くらくらする頭を押さえ、立ち上がった彼の目に信じられないものが映る。
「何だっ!?」
新一の周囲に広がる景色はどう見ても日常のそれとは異なっていた。建物も人々が身にまとっている衣服も明らかに違う。
「一体……?」
訳が分からない状態のまま呆然と立ち尽くした時だった。
「☆☆●○○○○○※!!」
という声がしたかと思うと、彼の周りを数人の男達が取り囲んだ。
「○○▲!!」
「★★□□□□□▽☆☆☆★★★★★○○○○○★★★★■■△△△△△●●●★★★★○/○○○○●●●●◆◆◆◆◆■☆☆☆○○○○※!!」
新一に向かって叫ぶと、一斉に襲いかかって来る。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
理由もなく応戦する訳にもいかないが、言葉が通じなくては釈明も出来ない。
「くそっ!!」
相手の攻撃を避けながら、新一は一目散に走り出した。



少々怪我は負ってしまったものの、サッカーで鍛えた足は伊達ではなく、何とか追手を撒いたようだった。物陰で息を整える新一に、男達は気付かず、走り去って行く。
「……ははは、何がどうなってんだよ」
悪い夢だろうか……と頬をつねってみるが見える景色は変わらない。思わずため息をついた時、彼の肩に誰かが手を触れた。
「誰だ!?」
視線の先にいた人物に新一は驚きのあまり一瞬言葉を失う。
「○○▲?」
「志保!?おめえその格好……!?」
「☆◎●……?」
一瞬、戸惑った様子の彼女は、新一に優しく微笑むと彼の腕を引っ張った。
「あ……」
とりあえず危害を加えられる心配はなさそうだ。新一は大人しく彼女の後に続いて歩き出した。



連れて来られた家で新一を出迎えてくれたのは阿笠そっくりの男性とフサエそっくりの女性だった。
「博士!?」
「☆☆☆☆☆●●●▽●●●●●」
男性がいきなり新一の顎を掴むと、抗議の声を無視して彼の口を強引に開け、歯に何かをくっつけた。
「……っと、これでどうかの?」
「えっ!?」
突然、相手の言葉が理解出来るようになり新一は愕然とした。
「わしが発明した超小型翻訳マイクじゃ。万国共通タイプじゃから君がどこの国から来た人間でもわしらの言葉が分かるはずじゃがどうかの?」
「は、ははは……」
博士はここでも発明家かよ、と、心の中で突っ込んだ新一だったが、言葉が通じるようになった事には感謝した。
「志保、博士、フサエさん、一体、何がどうなってんだよ!?」
「何がどうって……どうしてあなた、私達の名前知ってるの?まあ、お義父様の名前は正確には『Hiroshi』だけど……」
志保に似た少女が首を傾げる。
「あら、Shiho、この人、Shin君じゃないの?」
「私もてっきりShinだと思って声をかけたの。そうしたら言葉が通じないから……」
「Shinって……志保、ここは一体どこなんだよ!?」
「どこって……Beika国よ」
「米花……国!?」
「ほう……君はどうから異世界から来た人間のようじゃの」
唖然とする新一の様子を見ると、阿笠に似た男性は微笑んだ。
「異世界?」
「そうじゃ。世界は一つではない、というのがわしの研究テーマじゃ。異なる世界に自分と同じ魂を持つ者がおるのではないか……若い頃からずっと研究しておっての、君に取り付けたマイクもわしの研究の一環じゃ。まあ信じてくれる者は少ないがのう」
「……」
「君がワシらの名前を知っておるという事は……どうやら君のいる世界でも君とワシらは何らかの繋がりを持っておるはずじゃ」
「繋がりもなにも……」
その時、会話を遮るように、突然玄関の扉が開いたかと思うと、誰かがずかずかと入って来た。
「ちょっと、Shiho!」
「ら、蘭!?」
蘭そっくりの少女は新一を見て薄笑いを浮かべた。
「……へえ、遊び人のShinもさすがに驚いて駆けつけたみたいね」
「驚いてって?」
「Ran、この人はShinじゃないわ」
「えっ!?」
Ranと呼ばれた少女はまじまじと新一を見つめた。
「そういえば変な服着てるわねえ……ま、世の中に自分と似た人間は三人いるっていうけど……本当、Shinにそっくりね。で?あなた、名前は?」
「オ、オレは工藤新一……」
思わず素直に答えてしまう。
「ふうん……確かにこの国の人間じゃないみたいね」
「ところで……Ran、何かあったの?」
「『何かあったの?』じゃないわよ!Shiho、あなた、あの話受けたって本当なの!?」
「それは……Ran、あなたには関係ない事でしょ?」
「関係ないじゃないわよ!私にも何も言ってくれないなんて酷いじゃない!」
「……」
Ranの勢いにShihoは黙って俯いてしまった。
「『あの話』って……Shiho、何の事?」
フサエに似た女性が心配そうにShihoの顔を見る。
「お義母様、本当に何でもないから……」
「何でもない訳……」
「なあ、Ranさん、それくらいで勘弁してやれよ。Shihoさん、困ってるぜ?」
Shihoの苦しそうな表情に思わず新一は口を挟んだ。
「あなたこそ黙っていてくれる?Shihoは私の大切な幼馴染なんだから」
どうやらこの世界ではShihoとRanが親友のようだ。自分のいる世界とはあまりに異なる二人の関係に新一は苦笑した。
「それに……Shinの事はどうするのよ?私はあんなヤツ反対だけど、Shiho、アイツの事好きなんでしょ?アイツだって……!!」
「Ran、止めて…!」
ShihoがRanの言葉を断ち切るように叫んだ。
「Shiho……」
Shihoの目からいつの間にか涙が零れていた。
「……ごめん。出直す……ね……」
RanはShihoの肩を優しく抱くと家を出て行った。



「……新一さん、さっきはごめんなさいね」
怪我の手当てをしてくれたお礼に、と、夕食の買出しを手伝った帰り道、それまで黙っていたShihoが口を開いた。
「ああ、Ranさんの事?」
「私の事を心配してくれているのは分かっているんだけど……」
「彼女が言ってた『あの話』って?」
「……」
「あ、ごめん、言いたくなかったら別に……」
異世界に来てまで『探偵』としての好奇心がついつい出てしまう自分に新一は慌てて言葉を濁したが、思わぬ事にShihoの口は滑らかだった。
「そうね……Shinにこんな話出来ないものね……Shinと同じ魂を持つかもしれないあなたに話せば、少しは気が楽になるかしら」
Shihoは寂しげに微笑むと言葉を続けた。
「実は……『王家に嫁がないか』ってお城の執事の方に言われて……王家の方なんて私にとっては雲の上の方、顔も知らないわ。それなのに……なぜか分からないんだけど、王子様が私を気に入ってくれたみたいなの。ま、女としては光栄な話なんだけど……私……」
「オレそっくりのShinってヤツの事が好きなんだろ?だったら断っちまえばいいじゃねえか」
「私が王家に嫁げば、お義父様はもっと研究に本格的に取り組む事が出来るわ。お義母様だって仕立物屋なんてやらなくてよくなる……私、あの二人の本当の娘じゃないの。私の本当の両親は私が三歳の時に事故で亡くなったらしくて……」
「親孝行のつもりか?そんな事してもあの二人が喜ぶとは思えねえけど」
「でも……私に出来る事はこれくらいしか……それに王家の意向に背いたら……」
「迷ってる原因は他にもあるんだろ?」
「えっ?」
「分かるさ、君と同じ魂を持つかもしれない志保はオレの……その……」
『恋人』という単語がどうしても口から出なかったが、顔が赤面してしまっているのが自分でも分かる。
「……羨ましいわ、志保さんが」
「え?」
「Shinは……私の事どう思ってくれているのかしら?彼、いつも肝心なところをはぐらかすから……」
Shihoの台詞に新一は思わず微笑んだ。
「オレは逆にShinって野郎が羨ましいけどな。志保はなかなか本音言わねえから」
「そう……なの?」
「ああ。『私の事どう思ってくれているのかしら?』なんて絶対言わねえ」
「でも……志保さんと私が『同じ魂を持つ者』だとしたら……きっと同じように不安を抱いていると思うわ」
「そう……なのか?」
「私もあなただから言えたの。Shinの前では言えないもの……」
「……」
Shihoの寂しそうな微笑みに新一は言葉を失った。



翌日。すべてが夢である事を期待して目を覚ました新一だったが、彼の目の前に広がる世界は変わらなかった。
この世界ではとりたててやる事はない。志保とShihoは違う人物であると分かってはいたものの、彼女の事を放っておく事も出来ず、新一はShinと直接会ってみる事にした。彼を探す方法は簡単である。そっくりである事をいい事に、彼になりきってしまえばいいのだ。この世界のShinとして動き回っていれば、嫌でも関係者が声をかけてくるに違いない。
「ちょっと探索して来たいんだけど」とShihoに言うと、彼女はこの世界の衣類とお金を渡してくれた。
「夕食の時間までには戻って来てね。夜は物騒だから」
『○○までには戻って来てね』……志保に言われた事ない台詞だった。思っていても言わないのだろうか?
新一はShihoを安心させるように「分かった」と頷いてみせると、家を出た。
最初に訪れたのは、この世界に来た時辿り着いた空き地だった。しばらく時間を潰したものの、誰も来ない。
(こんな場所じゃ無理か……)
人通りの多い場所へ移動する。若者達が集いそうな場所を彷徨い続けたが収穫はない。疲れてカフェで休んでいると、高校のクラスメイトに似た男に話かけられた。
「よお、Shin。この前はサンキュー」
「……この前?オレ、何かしたっけ?」
「はは、もう忘れちまったか。ま、あん時は病院送りは二人だけだったからな。Shinにしてみりゃたいした事でもねえか」
「は、はは……」
(オイオイ、この世界のオレは一体何者なんだよ?)
新一は思わず心の中で突っ込みを入れた。
「ま、礼は今度きちんとさせてもらうからよ。悪いけど今日忙しいんだ。じゃな」
「あ……」
男はそれだけ言うとさっさと走り去ってしまう。
新一は溜息をつくとカフェを出て市場へ向かった。
「おや、Shin君」
今度は新一が中学生時代までよく会っていた、優作の当時の担当者に似た女性に声をかけられた。この世界ではどうやら市場で果物を売っているらしい。
「どうも」
「一人とは珍しいね。いつもShihoちゃんと一緒なのに」
「ああ、ちょっと買い忘れたものがあって」
どうやらShinは市場へはいつもShihoと来ているようだ。
「あ、そうだ、このリンゴ頂けますか?」
「いやねえ、それはマナの実でしょ?好物の名前間違えるなんてShihoちゃんと喧嘩でもしたの?」
「あ、いえ、そういう訳では……」
「ああ、そういえばこの前は助かったよ」
「え?」
「ほら、あんたがウチの娘、夜盗から助けてくれたじゃない。さすがRanちゃんが認める唯一のライバルだねえ」
「Ran……が?」
「あはは、あんたの前では口が裂けても言わないか。Ranちゃん、あんたの剣の腕買ってるよ。くやしいけど敵わないって」
病院送り二人……剣の達人……どうやらこの世界の自分はかなり腕がたつようだ。しかし、この女性の口からもShinについてそれ以上聞く事は出来なかった。どこに住んでいる、とか、どういう素性の男か、など、新一が一番知りたい情報が入って来ない。
「……あ、おいくらですか?」
「いやねえ、御代なんか受け取れないよ。お礼って事で受け取ってちょうだい」
半ば強引に食べ物を押し付けるところまでそっくりなところに、新一は苦笑するしかなかった。
市場を出た頃には太陽が地平線の彼方へ沈もうとしていた。
「……ったく、空振りかよ」
いい加減戻らないとShihoが心配するだろう。
新一が家路へと足を向けた時だった。突然、もの凄い力で羽交い絞めにされたかと思うと、誰かが睡眠薬のようなものを口に押し付けてくる。
「……!!」
抵抗する暇もなく新一は意識を失った。



ぼやけていた視界のピントが次第に合って来る。どうやらベッドに寝かされているようだった。
「ここ……は……?」
身を起こした新一の目の前に目暮によく似た男が立っていた。
「……おかえりなさいませ」
男が皮肉めいた声で話しかけて来る。
「『おかえり』って……あんた誰だよ?」
「今度は記憶を失った振りでございますか?Shinichi様」
「新一って……どうしてオレの名を?」
「王子、このMegureをからかうのもいい加減にして下さい!」
「王子って……オレが!?」
「今度は他人のふりでございますか?」
思わず大声を上げた新一をMegureがキッと睨む。
「王子が城を抜け出す度に私がどれだけ胃の痛い思いをしているか……Yusaku様とYukiko様に叱られるのはこのMegureなんですぞ!」
「あ、あの……オレは……」
新一に反論の余地はまったく与えられなかった。
「まったく……せっかく王子が一目惚れしたというShiho様が結婚の申し出を受け入れて下さったのですから、少しはこの私の苦労をお考え下さいませ!」
それだけ言い残すと、Megureはさっさと部屋を後にしてしまった。
(どういう事だ……?)
Megureの話から推測するに、どうやらShinとShinichi王子は同一人物のようだ。しかし、Shinの事を想い、そのうえ王家に嫁ぐ事になっているShihoの顔はとても幸せそうには見えなかったのだが……?
「まさか……」
新一の頭にイヤな予感が走った。



「よっ、と」
その男は木の枝からバルコニーへと身軽に飛び移ると服についた葉を払った。
「……どうやらバトラーのMegureにはバレなかったみてえだな」
「……そりゃそうさ、おめえの代わりにオレがここで大人しくしていたからな」
「誰だっ!?」
思わず剣を抜いた相手より一瞬だけ新一の方が早かった。蹴り上げた鉄兜が手許から剣をはじき飛ばす。
「……やっと会えたな。『オレ』」
新一は不敵な笑みを浮かべると、Shinichiに話しかけた。ところが、相手は「おめえ……まさか」と呟いたかと思うと、いきなり新一の頬を引っ張った。
「……痛ッ!てめえ、何しやがる!?」
「西の国のHeijiじゃない……!?貴様、一体何者だ!?」
「だから……」
自分がShinichiの立場だったら全く同じ行動をとるだろう。新一は思わず苦笑するしかなかった。



とりあえずもう一人の自分を落ち着かせると、新一はこれまでの事を順を追って話した。最初はあまりに突拍子のない話に半信半疑だったShinichiだったが、この世界の阿笠に装着してもらった超小型翻訳マイクを見せると少しずつ彼の話を受け入れていった。
「……で、おめえに聞きてえ事があんだけど」
一通りの話を終えると新一は本題に入った。
「あん?」
「おめえ、ひょっとして自分の身分、Shihoに言ってねえんじゃねえか?」
「ど、どうしてそれをっ!?」
「……図星か。もう一人のオレだけあって、考える事は同じみてえだな」
「……」
「じゃ、もう一つ聞くが……Beika国の王子、ShinichiとShihoさんの間に結婚話が持ち上がってる事知ってっか?」
「何ィ!?」
Shinichiは驚きのあまり新一に掴みかかった。
「おい、なんでそんな話が勝手に……!?」
「……やはり、な。まあいい、話は後だ。行くぞ!」
新一は有無を言わさない勢いでもう一人の自分を引っ張った。



「……新一さん?」
玄関の扉を開けると、Shihoが心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「良かった、遅いから夜盗に襲われたかと思ったわ」
「ごめん。ちょっと色々あって、さ」
「え?」
「……おい、何やってんだよ?」
新一に促され、ShinichiがShihoの前へ姿を見せた。
「Shin……!どうしたの、こんな夜遅く?」
「Shiho、ごめん……!」
ShinichiがShihoを抱きしめる。
「ちょ、ちょっと……?」
「オレが黙ってたせいでおめえに辛い思いさせちまって……まさか父さんと母さんが勝手に話進めるなんて思ってなかったんだ……」
「え?」
「Shiho、実はオレ……おめえが結婚する事になっているShinichiなんだ」
「Shinichiって……王子様!?」
「王子なんて身分抜きで……一人の男としておめえに愛してもらいたかった……それがおめえを苦しめる事になっちまってたなんて……本当にすまなかった……」
「あなたが……Shinichi様だったなんて……」
思わぬ事実にShihoの目から涙が零れる。その姿が志保と重なり、新一の胸が熱くなった。
志保の元へ戻りたかった。しかしこの世界からどうやって自分の世界に戻れるというのだろう……?
(志保……)
その時、突然新一の周囲の空間が歪んだ。
「何だっ!?」
「……おめえの顔に書いてあるぜ。志保の元へ戻りたいんだろ?この世界で異次元に人間を飛ばせるのは王家の人間だけだからな。仕方ねえ、送ってやるよ。次元の魔女に怒られちまうけど、な」
Shinichiが苦笑する。
「お、おいっ!!」
「サンキュー、『もう一人のオレ』。おめえの世界の志保さんによろしくな」
その瞬間、新一の意識が途切れた。



「……新一?」
ふいに揺り起こされ、驚いて振り向くと志保が心配そうな顔で新一を見つめていた。
「志保!?」
「どうしたの?キッチンで眠り込むなんて……嫌な事件でもあったの?」
「あ、いや……」
今までの出来事はすべて夢だったのだろうか?そう思いかけた新一に、Shihoが手当てをしてくれた跡が『現実』である事を告げていた。慌てて歯を触るが超小型翻訳マイクは次元を飛んだ瞬間に吹っ飛んでしまったようだ。
「……なあ、志保」
「何?」
「おめえも……やっぱり不安なのか?」
「えっ?」
「その……何て言うか……オレがおめえをどう思っているのかとか……思ったりする訳?」
「……熱でもあるの?」
「真面目に聞いてるんだ」
「新一……」
志保は彼の真剣な視線に一瞬黙り込んだ。
「……不安よ」
「えっ?」
「不安だから……待っていられないの……このままあなたが帰って来てくれなかったらどうしようと思うと……とても起きていられないの……朝、あなたの姿を見てホッとする事の繰り返し……きっと今の幸せが信じられないのね……」
「志保……」
新一は思わず言葉を失った。志保の不安に気付かず蘭と比較していた自分が情けなくなる。
(探偵失格だな)
新一は志保を抱きしめた。
「……ごめん」
「……えっ?どうしてあなたが謝るの?」
訳が分からないと言いたげな志保を抱く腕に力が入る。
「オレが馬鹿だった、って事さ。あの世界に行ったのはおめえの事を理解してやるためだったんだな、きっと」
「あの世界?」
「……いや、何でもねえ」
新一は志保に曖昧に微笑んでみせると、彼女の唇に自分のそれをそっと重ねた。



あとがき



恵様の14,869Hitのきりリク作品です。お題は『異世界もの。新一が王子で、コナンキャラオンリー』というものでした。恵様サイト『新志同盟』(閉鎖)で先行公開されていた作品です。やっぱり新志は難しいというのが正直な感想です@苦笑
ちなみにCLAMP先生の作品、『xxxHOLiC』の主人公、侑子さんと四月一日君がゲスト出演しています。やっぱり『異世界』といえば彼らでしょう@笑