I feel close to you その夜、少年探偵団の3人は阿笠邸で彼の新作ゲームに興じていた。 彼らがここにいるという事は当然コナンも呼び出されている訳で、ゲームに興味のないコナンはリビングのソファで新名香保里の新作を読んでいた。 一方、阿笠家の居候、灰原哀にしてもゲームに興味はあるはずなく、キッチンで何やらファッション雑誌を繰っている様子だ。 「いけっ、そこだっ!!」 光彦がプレーするのを元太が横から応援せんとばかりに大声で叫ぶ。しかし、大声援虚しく『GAME OVER』と表示されたかと思うと、阿笠をもじったようなキャラクターが画面でVサインをしていた。 「あ~、また負けました」 「ったく、下手だな、光彦!」 「10回やって一度も勝っていない元太君が言える台詞じゃないと思いますけど」 光彦のもっともな台詞に元太が言葉を失う。 「今度は歩美ちゃんがやってみませんか?」 「え?あ…うん……」 「どうしたんだ、歩美?」 「なんか……だるい……」 歩美の異変に気づいた哀がキッチンからやって来る。 「……熱はないみたいね。吉田さん、夕食はきちんと食べた?」 「うん……あんまり食欲なかったけど……」 「頭痛い?」 「ううん……でも気持ち悪い……お昼にお母さんとデパート行ってからなんとなく……」 「夏バテだな」 いつの間にかコナンが哀の後ろへやって来ていた。 「デパートの冷房が原因かしら。吉田さん、今夜はもう帰って寝た方がいいわ」 「けどよお、歩美ん家、今日誰もいねーぜ」 「どういう事だ、元太?」 「今夜、博士の家に泊まるって言ったら、歩美ちゃんのお母さん、『ちょうど良かったわ、今夜お母さんも友達の家に遊びに行きたかったの』って言ってましたから。お父さんは昨日から二泊三日で出張だそうです」 「困ったな……」 コナンが考え込むように顎に手をかける。 「仕方ないわね。博士、今夜はリビングで寝てくれる?」 突然の哀の申し出に阿笠の方が驚いたようだ。 「わしは構わんが……」 「じゃ、今夜は吉田さんは博士のベッドで寝てちょうだい。私は隣にいるから調子悪いようだったら遠慮なく言ってね」 「うん……ごめんね、哀ちゃん」 「気にしないで。……ところで、元気な人達には申し訳ないんだけど、そろそろお開きにして頂けないかしら?」 「そうですね……歩美ちゃんは早く横になった方が良さそうですし」 「仕方ねえな」 元太と光彦は残念そうに呟くと玄関に向かった。 「……じゃ、オレも帰るから。博士、灰原、歩美ちゃんの事頼んだぜ」 コナンは読んでいた小説を閉じると二人の後に続いた。 8月に入って急に温度が上がったせいだろうか。 寝苦しさを覚え、ベッドから身を起こした歩美の目に薄明かりのもと哀が何やら読んでいる姿が映った。時計を見ると午前2時を指している。 「……哀ちゃん?」 「あら、起こしちゃった?」 「ううん、ちょっと暑くて……」 「そうね、ここのところ蒸し暑いから……」 「哀ちゃん、いつもこんな時間まで起きてるの?」 「まさか。いくら私が夜行性でもこの時間は夢の中よ」 「……ひょっとして歩美のために起きててくれたの?」 歩美の台詞に哀は一瞬苦笑した。 「まあ…ね。でも、私自身、寝苦しくて眠れないだけだから気にしないで」 「……」 「……どうかした?」 「う、ううん、何でもない」 「クーラー少しだけつけるから、涼しい間に眠るといいわ」 「ねえ、哀ちゃん……聞いてもいい?」 「どうしたの?改まって」 「哀ちゃん、やっぱりコナン君の事好きなんでしょ?」 突然、歩美に話題の矛先を変えられ哀は一瞬絶句した。 「言ったでしょ?彼の事、そういう対象として見てないって」 「前は……ね。でも、今は違う。だって気がつくといつも哀ちゃん、コナン君の事見てるもん」 「……」 歩美の目は真剣だ。下手に嘘をついたらかえって傷つけるだろう。 「……こっちの気持ちに関係なく真っ直ぐに飛び込んで来るんだもの。そういうところが彼の魅力なんでしょうけど……初めてよ、あんな人……」 「哀ちゃん……」 哀の口調に今度は歩美が言葉を失う。しかしそれも一瞬、「じゃあ、哀ちゃんと歩美は親友でもありライバルでもあるって事かぁ……フフッ、何か素敵だな」と幸せそうな笑顔を向けた。 「そうかしら?」 「だってそれだけ気が合うって事でしょ?」 「お互い趣味が悪いだけかもしれないけどね」 「アハッ、そうかも」 悪戯っ子のように笑う歩美だったが、再び睡魔に襲われたのだろう。「なんか……今日は哀ちゃんと本当の友達になれた気がする」と呟くとスーッと眠りに引き込まれて行った。その様子に部屋の明かりを落とす哀だったが、行動とは逆にすっかり目は冴えてしまっていた。 (本当の事を知ったら吉田さん、あなたはどう思うのかしら……?) 翌朝。歩美の母が娘を迎えにやって来た。 「本当に昨夜はすみませんでした」 「いやいや、わしは何もしておりませんから。お礼なら哀君に言ってやって下さい」 阿笠の言葉に歩美の母が哀の方を見る。 「いつも歩美がお世話になってるそうね。ありがとう、哀ちゃん」 「こちらこそ……」 「哀ちゃんってどんな子?って聞くと、『お姫様でも悪い魔法使いでも歩美の親友だよ』ってこの子がいつも言ってるから、一度きちんとご挨拶したかったの。これからも歩美の事よろしくね」 哀は思わず歩美の顔を見た。当の歩美は『余計な事言わないで!』と言わんばかりに母親を睨んでいる。 「じゃ、じゃあ、哀ちゃん、またね」 歩美は照れ笑いを浮かべると母親を引っ張って行った。 「お姫様でも悪い魔法使いでも……か」 哀が独り言のように呟く様子を阿笠はただ微笑んで見つめていた。 Inspired By Tonight,I feel close to you(倉木麻衣 with 孫燕姿) あとがき 『呪文を忘れた魔法使いへ』にも繋がる設定で短編を起こしてみました。 「お姫様でも悪い魔法使いでも歩美の親友だよ」という台詞が長編のキーになっています。 あはは、もろ『エイリアン○り』の影響受けていますね@苦笑 |