エピローグ



窓の外から聞こえる鳥の囀りに意識を取り戻す。どうやらリビングのパソコンで調べ物をしていてそのまま眠ってしまったらしい。椅子に座ったまま大きく身体を伸ばすと中身が半分残った珈琲カップを手に立ち上がる。
まだぼんやりする頭でキッチンへ向かった哀の目にそれは飛び込んで来た。
「HIV抗体迅速検査(イムノクロマト法)陰性……?」
どうしてこんな物が……と訝しげに首を傾げたその時、「どうやら変な病気にはかかってねーみたいだからよ」という声が聞こえた。
「そう、良かったわね」
「……ってオイ、それだけかよ?」
「他にどう反応しろっていうのよ?」
「それは……」
もっともな言い分にしばし返す言葉を見付けられない様子の新一だったが、「なあ灰原、オレがなりたいのはやっぱり『平成のホームズ』なんだ」と真剣な表情で哀を見た。
「ホームズにはアイリーンが必要だろ?」
「何寝ぼけた事言ってるの?あなたには蘭さんがいるじゃない」
「あれから何度も話し合って蘭とは正式に離婚する事になった。最後にアイツに言われたよ、『新一の事は今でも好きだよ。でもどんなに頑張っても私はアイリーンにはなれないから……』って」
「……」
「オメーが戻って来てつくづく実感したんだ。オメーといると楽しいし、ありのままの自分でいられる。それに……オレを出し抜く女はオメーくらいしかいねーしな」
まるで付き合う事が決定したかのような物言いに哀は盛大な溜息をつくと「あなた一つ重要な事を忘れてない?」と新一を睨んだ。
「あん?」
「悪いけど私、今のあなたなんか興味ないわよ?」
「んな事分かってるよ。けど近い将来、オレの中にオメーが好きだった『江戸川コナン』を絶対取り戻してみせるからさ」
はにかんだ表情でそう呟く新一に哀は「……そうね、十年経ってあなたの子供云々言う女の人が現われなかったら考えてあげる」と悪戯っ子のような笑みを返した。