ハロウィンのキセキ



「なあ、青子、一体どうしたってんだよ?」
秋晴れの清々しいある日の午後。いつもと違う中森青子の様子に黒羽快斗は戸惑いを隠せなかった。普段、ちょっとでもからかえば「何よ!バ快斗!」とムキになって突っかかってくる青子が今日は朝から何の反応もない。
「中間テストの結果、そんなに悲惨だったのか?」
「……」
「桃井と喧嘩でもしたのか?」
「……」
「警部がどっか飛ばされたとか?」
「……」
「ひょっとして……『あの日』だったり?」
「……」
鉄拳覚悟で言った台詞にも押し黙ったままの青子にさすがに何かあったと察する。
快斗は真面目な表情になると、「何があったんだ?オレに出来る事なら力になるから言ってみろよ」と、青子の顔を覗き込んだ。明るさが取り柄の青子だけにここまで重症だと放ってはおけない。
「……本当?」
やっと口を開いた青子に「おう」と胸を張って見せる。が、次の瞬間、彼女の口から出た言葉に快斗はピシッと凍り付いた。
「快斗、青子ね、怪盗KIDに会いたいの…!」



「それで……KIDの事を調べてみるなどと、とんでもない約束を交わされてしまったという訳ですね?」
「だってよお……」
プールバー『ブルー・パロット』のスタッフルーム。キューを手に溜息をつく寺井を睨むと快斗はソファにドサッと身体を沈めた。
「仕方ねえじゃん。『手品に詳しい快斗ならKIDの事、何か分かるかもしれないよね!』なんて言われちまったら……」
その時の青子の嬉々とした表情が頭から離れず、快斗は「あーっ、クソッ!!」と頭を掻きむしった。
「まさかぼっちゃま、怪盗KIDとして青子様と接近されるおつもりでは……?」
「さすがにそんな危険は出来ねえけど……」
青子の前にKIDとして会話が交わせるほどの距離で現れた事はない。ボーっとしているとは言ってもそこは幼馴染、そんな事をしたら簡単に見破られてしまうだろう。
「それにしても、なぜあの青子様が怪盗KIDに会いたいなどと……単純にお父上に代わってKIDを捕まえたいという訳でもなさそうですし……」
「それがさ、いくら聞いても理由を言わねえんだよな……」
「オレじゃダメなのかよ?」という快斗の問いかけに青子は「快斗には……無理だもん」としか答えなかった。青子の頼みを引き受けたのは、あれだけKIDを嫌っている彼女が突然会いたいと言い出すにはそれなりの訳があるだろうという判断は勿論、『自分には無理』と頭ごなしに否定された事が面白くなかったというのもある。
「で…ジイちゃん、一つ頼みがあるんだけどさ」
快斗は悪戯っ子のような瞳を寺井に向けた。



「本当!?」
「怪盗KIDとコンタクトが取れた」という快斗の台詞に青子は驚いたように目を丸くした。
「ああ。一か八か知る人ぞ知る手品サイトの掲示板に書き込んでみたんだ。『中森警部の娘が怪盗KIDに会いたがってる』ってな」
「それで?」
「ま……奴にしてみれば誰がそんな書き込みをしたのか、調べるのは朝飯前だったみてえだな。今朝、オレの家の郵便受けにこんな手紙が入ってたって訳だ」
用意した封筒を差し出すと、青子は恐る恐るといった感じで見つめている。
「……どうした?」
「だって…KIDからの手紙なんて一体どんな仕掛けがしてあるか分からないじゃない?いきなり睡眠ガスが出て来るかもしれないし……」
(……って、おめーがKIDに会いたいっつったくせに何びびってんだよ?)
心の中で突っ込みを入れた快斗だったが、「眠り姫にしたいような美女ならともかく、青子が相手じゃKIDもそんな手間暇かけねえと思うぜ?」と、青子に封筒を押しつけた。
いつもの青子なら「し、失礼ね!!」と返して来るところだが、黙って頷くと封を切り手紙を取り出す。
「『中森青子様  貴女のお誘い心より嬉しく思います。来たる10月29日午後9時、杯戸シティホテル屋上にてお待ち申し上げております。 怪盗KID』……」
「10月29日っていうと明日か。良かったな、取りあえず会ってくれるみてえじゃん」
「う、うん……」
「青子…?」
「ねえ、快斗、その…明日なんだけど……一緒に行ってくれないかなあ?」
「はぁ?」
心外と言いたげに眉をひそめる快斗だったが、さすがに長い付き合いだけあり彼女のこの反応は想像していた。
「本当は快斗にはあまり聞かれたくないけど……青子、KIDっと二人っきりで会うなんて怖いもん……」
「……ったく」
「ね、お願い」
「わーったよ」
仕方ねえな、と言いたげに肩を竦めてみせる快斗だったが、『快斗にあまり聞かれたくない』という青子の言葉が胸にチクッと刺さった。
(どんな話か知らねえが……ま、じっくり聞かせてもらうとすっか)



「……オメー、一体どういうつもりなんだよ?」
待ち合わせ場所に現れた青子に快斗は思わず顔をしかめた。
「だって……相手はあの怪盗KIDよ。何を仕掛けてくるか分からないじゃない!」
懐中電灯に防犯スプレーに防煙マスク、ハングライダーで連れ去られないための用心なのか、身体に重りまで付けている。
「あの泥棒にも選ぶ権利はあると思うが……」
「バカな事言ってないで!ホラ、快斗の分もあるから!」
問答無用で押しつけてくるそれらの品々を渋々受け取って見せたものの、快斗は内心ほくそ笑んでいた。遠隔マイクで喋る時、青子に気取られないようにするため、「用心だ」とでも言ってマスクを渡すつもりで用意していたからだ。その品を青子から渡されるとは、まさに棚からぼた餅である。
杯戸シティホテルに到着するとエレベーターで最上階まで上がり、従業員用の階段を使って屋上へ向かう。快斗にしてみれば手慣れた行為だが、それを青子に悟られる訳にもいかず、わざと間違えてみせたりしたせいか、屋上へ着いた時には普段よりすっかり疲れ果ててしまっていた。当然、青子はそんな快斗の思惑など気付くはずもなく、「何よ、快斗ったらだらしないんだから〜」などと呆れたような視線を投げてくる。
(……ったく、こっちの気も知らないでよお〜)
思わず愚痴がこぼれそうになるのをグッと抑えると、快斗はさりげなく青子を寺井と約束したポイントへ誘導した。
「……もうすぐ時間だな」
「うん」
青子が防煙マスクを装着するのを見て快斗もそれにならう。勿論、その中にマイクを装着するのを忘れない。
午後9時。雲一つない夜空にポンッという音が響いたかと思うと、白いスーツに身を包んだ怪盗KIDが現れた。もちろん寺井の変装である。
「初めまして、と言うべきでしょうか?」
「KID…!」
「早速ですが、中森警部のお嬢さんがこの私に一体何の御用でしょう?」
スーツにつけたスピーカーを通して声が流れる。念には念を、という事で声色を使って喋っている事もあり、まさか隣に立つ快斗と話をしているとは青子は夢にも思っていないようだ。
「本当は……あなたの力なんか借りるのはしゃくだけど……頼みがあるの!」
「警官の娘であるあなたが私に頼み事とは……非常に興味深いですね。一体どんな事でしょう?」
「ある物を…盗んで欲しいの……」
(なっ…!?)
思いがけない青子の言葉に思わず叫び出しそうになった快斗だったが、なんとか平静を保つと「ある物とは?」と問い返した。
「あなたが狙うような高価な物じゃないけど……『パンプキン・トリック』っていうフローライトで出来たオブジェ。米花公園近くのマイルストーン博物館に所蔵されているの」
「それをなぜ私に盗み出せと……?」
「あなたなら……後で返してくれるから……」
「……どういう意味ですか?」
「そのオブジェ、ある人に買い取られる事になったんだけど……その人、美術品を法外な値段で闇ルートに流している事で有名な人物なの。警察もマークしてるんだけど、証拠不十分で逮捕出来なくて……」
「私が盗み出す事によって警察が証拠を掴む時間を稼ぎたい……そういう事ですね?」
「警官の娘が泥棒にこんな事頼むのは筋違いだって分かってるけど……他に方法がないから……『パンプキン・トリック』はハロウィンをモチーフにしたデザインで博物館でも人気があるの。でも、その人の手に渡ったら二度と見れなくなっちゃう……お願いKID、力を貸して!」
青子の真剣な表情に快斗はフッと微笑んだ。
「いいでしょう。ただし……一つお願いがあります」
「お願いって……青子、宝石なんて持ってないし……どうすればいいの?」
「それは仕事が成功した暁に……」
次の瞬間、白い怪盗の姿は月夜に消えた。
「……なるほど、だからオレには無理だ、って言ったのか」
快斗はマイクのスイッチを切ると、暗い夜空をボーっと見上げる青子に呟いた。
「うん。ねえ快斗……青子の事、軽蔑する?」
「あん?」
「だって……警官の娘が泥棒に盗みを依頼するなんて……」
「ま…警部が知ったら怒り狂うだろうな」
「……」
「心配すんなって。誰にも言わねえからよ」
「快斗……」
安心したように笑顔になる青子の頭をポンッと叩く快斗だったが、すでに頭の中はターゲット『パンプキン・トリック』に向かっていた。



「『Trick or Treat! 魔法の力強まりし日の始まりの刻、悪霊の灯火頂きに参上します。 怪盗KID』…か。相変わらず気障な野郎だな」
警視庁捜査二課に届いたという怪盗KIDの予告状に江戸川コナンは顔をしかめた。
「KIDの狙いはマイルストーン博物館に展示されている『パンプキン・トリック』っていうオブジェみたいだけど…?」
読んでいる本から目を離さず口を開く哀にコナンは「今話題の、な」と苦々しげに呟いた。悪名高い美術品コレクター、豪徳寺泰三が所有権を獲得した事でニュースを騒がしていたところへこの予告状だ。世論やマスコミはすっかりKIDの味方だった。
「……で?どうする気?」
「奴と接触出来る機会は限られてるからな。このチャンスを逃す訳ねーだろ?」
コナンは不敵に微笑むと、カップに一口だけ残っていた珈琲を飲み干した。



時刻は午後11時50分。間もなく予告の時間だ。
「さあ、ショーの始まりだぜ!」
ただの高校生から怪盗へと表情を切り替える。
マイルストーン博物館の周囲は予想通りたくさんの警官が警備についていた。
一人の警官にそっと近付くと催眠ガスで眠らせ、制服を失敬する。博物館の中庭に忍び込み、通風口の金網を外して中へ潜入した快斗は、わずかな明かりを頼りにターゲットの展示室へ辿り着いた。事前に調べたとおり『パンプキン・トリック』の展示室は非常灯以外は展示用のブラックライトしかないようで、警備のための投光器が多数持ち込まれている。その傍には青子の父、中森銀三と『パンプキン・トリック』を買い取ったという豪徳寺泰三の姿が見えた。
(いかにも成金って感じだな)
快斗は苦笑するとポケットから懐中時計を取り出した。
(3、2、1……)
予告時間ピッタリにリモコンを操作する。電気室の仕掛けが作動し、展示用ブラックライトと携帯用投光器以外のすべての電気が消えた。
「停電!?」
「KIDだ!!KIDが現れたぞ!!」
怒号が飛び交う中、快斗はフワリと通風口から舞い降りターゲットの方向へと駆けた。懐からトランプ銃を取り出し、投光器をすべて破壊すると、暗闇の中ブラックライトに照らされた『パンプキン・トリック』がジャック・オー・ランタンよろしく輝いた。
(さて、早速頂戴するとしますかv)
模造品を取り出し警官達を攪乱しようとした快斗だったが、突然、本物の『パンプキン・トリック』が闇に飲み込まれてしまった。
「……!?」
「……油断したな、怪盗KID」
中森警部の勝ち誇ったような声が響く。
「貴様が石に詳しい事を逆手に取らせてもらったよ。今、闇に浮かび上がった『パンプキン・トリック』は映像だ。本物はUVカットガラスの中にある」
「……」
「わしが逮捕するまでその模造品に照らし出され、天国にも地獄にも行けず暗闇を彷徨ったジャックの気分を味わうんだな」
「私はジャックのような性悪な人間ではないつもりですが……」
ポーカーフェイスで呟く一方、快斗の頭はフル回転していた。
(UVカットガラスか……おそらく、オレから『パンプキン・トリック』を守るために臨時に用意したんだな……って事は……!)
次の瞬間、快斗は持っていた模造品を月明かりが差し込む窓ガラスに向かって投げつけた。商売柄、自分の方が夜目がきく事は想像がつく。あっけにとられる中森警部をよそに、快斗は暗闇の中、かろうじてその輪郭が見えるターゲットの展示台に向けてトランプ銃の引き金を引いた。ガラスケースが弾き飛ばされ、ブラックライトにより『パンプキン・トリック』が鮮やかに浮かび上がる。
「……ビンゴ」
目にも止まらぬ速さで標的を掠め取ると、今度はブラックライトをトランプ銃で撃つ。蛍光管が割れ、展示室は完全に闇に飲まれた。
「追えっ!!逃がすな!!」
中森警部の叫び声を背中に、快斗はマントを翻すと展示室を後にした。



「これは……豪徳寺様」
玄関で迎える執事は自分の正体をまったく疑っていない様子だ。快斗は内心ほくそ笑むと、執事に『パンプキン・トリック』を持ち帰った旨を告げた。
「あの怪盗KIDを出し抜くとは……さすがですな」
執事が不敵な笑みを浮かべると快斗を地下室へと案内する。促されるまま部屋の中央にある台に『パンプキン・トリック』を置くと、「では、例の物に早速……」と告げられた。
(ゲッ!例の物って一体何だよ!?)
うろたえる快斗の様子に執事が不敵に微笑んだ。
「……やはり貴様、怪盗KIDか」
銃口が快斗に向けられる。
「私が執事の仮面を被っている事を知っているのは豪徳寺だけだからな」
「なるほど……おめえが黒幕だったって訳か」
「私の正体を知られた以上、生かしては帰さん」
「……」
注意深く懐の催涙ガスを取り出すチャンスを伺っていた時だった。突然、「グワッ!!」という悲鳴とともに執事が倒れ込む。
「……おめえにしては迂闊だったな」
不敵な声にその主を見るとコナンが立っていた。おそらくキック力増強シューズとかいう物騒な武器を使ったのだろう。
「こうでもしないと黒幕が出て来ねえだろ?それにしてもよくここが分かったな、名探偵」
「おめえがビッグジュエルでもない物を狙う時は大抵何か裏があるからな。わざと泳がせて様子を伺ってたんだ」
「ほう……じゃ、『例の物』ってのも分かってんのか?」
「見ろよ、おかしいと思わねえか?割れてもいないのにこんな所にそんな物が放置されてるなんてよ」
「ん?」
好敵手の視線の方向に目を向けると、部屋の隅にまるで廃棄されたかのようにガラスのモザイク画が置かれていた。
「そのモザイク画に紫外線をあてて反対側に『パンプキン・トリック』を置いてみろよ」
コナンがニヤッと笑うと部屋の明かりを消す。
この手の事は名探偵に任せた方がいいだろう。過去の事件でそれを痛感している快斗は大人しく彼の指示に従った。紫外線を当てた途端、モザイク画が輝くが、どうやら普通のガラスとUVカットガラスで構成されているらしく、14の文字と数字が浮かび上がった。
「なるほど……仲間にだけ分かる暗号になってるって訳ね」
「『BEIKA HOTEL 1031』…か?どうやら米花ホテルの1031号室に面白い物があるみてえだな」
コナンが満足気に呟くと身を翻す。
「……待てよ、名探偵。オレを捕まえなくていいのか?」
「ああ、今日は借りを返しに来ただけだからな」
「借り?」
「室蘭でおめえに滑走路を作ってもらっただろ?」
「ほう…いい心がけだな」
「バーロー、おねえにだけは借りを作ったままにしたくなかっただけさ。次に会う時はライバルだからな。絶対捕まえてやるから覚悟しておけ」
コナンはそれだけ言い残すとさっさと立ち去ってしまった。



どうしてこんなに寝苦しいんだろう?
深夜2時。青子はベッドから渋々起き上がった。普段なら一度眠りにつけば滅多な事では目が覚めないのだが、やはりKIDに依頼した『パンプキン・トリック』の事が気になっているのだろう。
カーデガンを羽織ると台所へ向かう。父の銀三はまだ帰っていないようで、玄関の豆球は点いたままだった。ニュース速報でKIDが『パンプキン・トリック』を盗み出した事は知っていたが、その後どうなったかは明かされていない。
(何か動きあったのかなあ……)
リビングでテレビの電源を入れようとした時だった。月明かりに照らされ、見覚えがあるシルエットが浮かび上がる。
「KID…!?」
青子は驚いて窓の側へ駆け寄った。
「今晩は。お約束通り『パンプキン・トリック』は私の手の中に……」
「そ、そう……」
「さすがね」と言いそうになり、慌ててその言葉を飲み込む。素直に口にするのはしゃくだった。
「ついでに豪徳寺という男の悪事の証拠も見付けました。おそらく今日中に逮捕される事でしょう」
「本当!?良かった〜」
これで『パンプキン・トリック』が闇ルートに流れてしまう事もないだろう。青子はホッと胸を撫で下ろした。
「で……お願いがあるって言ってたけど……青子、どうすればいいの?」
「そんな大した事じゃありませんよ。あなたの熱い口づけでも頂ければ……」
「えっ!?」
思わぬ要求にドギマギしてしまい、顔が真っ赤になってしまう。しばし、「あの、えーと…だから……その……」と意味を成さない言葉を繰り返していた青子だったが、やがて思い出すようにフッと微笑むと、「……ごめんなさい、青子、それは出来ない」ときっぱり言い切った。
「青子、好きな人がいるの。いっつも憎まれ口ばっかり叩いて青子の事からかうんだけど……どこか憎めなくて……」
「……」
「だからね、その……」
「……冗談ですよ。第一、あなたに顔を見られる訳にはいきませんからね。私からのお願いは豪徳寺が逮捕された後、『パンプキン・トリック』を博物館に戻して欲しい、それだけです。怪盗の私にとって盗んだ美術品を戻すのも一手間でしてね。『パンプキン・トリック』はこの家の玄関前に置いてありますので、後はよろしくお願いします」
「KID…!」
次の瞬間、怪盗の影は鮮やかに消えてしまった。慌てて玄関へ出た青子の目に新聞紙に包まれた『パンプキン・トリック』が映る。
「……『ありがとう』の一言ぐらい言えば良かったかな?」
添えられた『Trick or Treat!』のカードに青子はフッと微笑んだ。



(……で、何でこうなるんだよ?)
翌日。朝刊の一面記事に快斗は心の中でひとりごちた。『美術品 闇の帝王逮捕』はいい。が……
「見て見て!『中森警部 KIDからハロウィンの夢を取り戻す』だって〜v」
「……」
何がどうなったのか、警察が怪盗KIDから『パンプキン・トリック』を無事取り戻した事だけがクローズアップされてしまっているのである。
「……おめー、KIDに盗んでくれって頼んだ張本人のくせにそれはねえんじゃねえか?」
「それはあくまで悪徳ブローカーから『パンプキン・トリック』を守りたかっただけで……泥棒を肯定するつもりはないもん」
「あ、そ」
「本当、良かったあ〜」
青子はすっかりご機嫌な様子で快斗の複雑な心境などまったく気付いていない様子だ。「ホラ、早くしないと遅刻だよ!」と言うとさっさと走り出してしまう。
「へいへい」
渋い表情を作ってみるものの、どこか浮かれているのは青子の思いがけない告白のせいだろう。
(やっぱハロウィンは最高のマジックだぜ!)
快斗はニヤッと笑うと青子の背中を追い掛けるように朝日が照らす道を駆け出した。



くっきー様あとがき



パンプキントリックの方を考案しました。こんな感じに仕上がるとは思いもよらず…青子の思惑と、キッドの行動と、豪徳寺の陰謀とが複雑にからみあったストーリーが完成しました。最後はキッドと青子のシーンで終わりましたが、断ってくれてよかったですねぇ。断らなかった場合どうなったことやら…
コナンが完全に脇役になってたのはご愛嬌ってことで、ほたるさん、ありがとうございます。m(_ _)m



あとがき



「まじ快」ハロウィンものです。「蒼」様のイラストNo.96を拝見してどうしても書きたくなったのですが、まず気障な予告状に躓き、続いて華麗な盗みのシーンに躓き、最後に石のトリックに躓いたという@涙 結局、石のトリックはくっきー様に助けて頂き、連名での作品発表とさせて頂きました。
ちなみに「蒼」様イラストと同じくコナンがチョイ役で出ています。タイトルは苦し紛れでしたが「奇跡」と「輝石」で結果的に良かったのかな?