『ジューン・ブライド』なんて一体誰が流行らせたんだろう……? 6月の月名『JUNE』とローマ神話で結婚を司る女神『JUNO』に由来しているとか、ヨーロッパでは一年を通して一番雨が少ない時期だからとか、他にも色々謂れがある事は勿論知っているが、梅雨の真只中で連日雨が当たり前のこの国でそんな風習に乗る必要が一体どこにあるというのだろうか……? 江戸川コナンは鉛色のどんよりした空に浮かぶ雨雲を見上げると盛大な溜息をついた。 「……そんな所に立ってるとせっかくの一張羅が濡れるわよ?」 聞き覚えのある声に振り向くと灰原哀が苦笑いとともにコットンのハンカチを差し出して来る。 「悪ぃ…」 「らしくないわね、ボーッとするなんて……綺麗な彼女を目の当たりにして今更ながら後悔してるんじゃない?」 「バーロー、んな訳……」 「いいのよ、強がらなくても」 哀の言葉にコナンはフッと微笑むと「……ホッとしただけさ。今日でやっと『工藤新一』の役目が終わるからな」と小さく肩をすくめた。 「心配しなくても新出先生ならあなたより遥かに彼女を幸せにしてくれると思うけど?」 「だろうな」 「やけに素直に認めるのね」 「ああ見えて案外寂しがり屋だからな。アイツには常に傍で支えてくれる人間が必要なんだよ。事件が起これば放置しちまうような男じゃアイツを幸せには出来ないさ」 清々しい表情で言い切るコナンに哀が「……それじゃ工藤君、私、あの子達と先に家へ引き揚げるわ」と小さく肩をすくめる。 「ああ、夕飯までには帰るよ」 「間違っても披露宴で殺人事件なんか呼び寄せないでよね?」 半ば冗談とも思えない台詞にコナンは「ハハ……」と乾いた笑いを浮かべると、傘を広げ、教会の前で参列者を待つタクシーの列へ歩を進めた。 決別 「いよいよ今度の週末だね。新出先生と蘭お姉さんの結婚式!」 阿笠邸のリビングに掛けられたカレンダーの印を見て感慨深そうに呟く歩美にコナンは「そうだな……」とだけ答えるとコーヒーグラスを口に運んだ。 「でも……正直、ちょっと残念なんだよね」 悪戯っ子のようにペロッと舌を出す歩美に「残念って……何がですか?」と光彦が眉を寄せる。 「だって……小学生だったらお洒落なドレス着て行けたじゃない?」 「確かに中学生のオレ達じゃ制服で参列して終わりだもんな」 「そういう事……あ〜、蘭お姉さんの結婚があと二年早かったらな〜」 溜息混じりにグラスの中の氷をストローでぐるぐる掻き回す歩美だったが、「……ま、色々考えなくていい分楽じゃねーか。こっちはここ一ケ月、着せ替え人形状態で大変なんだぜ?」と独り言のように呟くコナンにその手を止めた。 「あれ?コナン君は制服じゃないの?」 「式だけならともかく家族でもないのに披露宴で制服はおかしいだろ?」 何でもない事のように言うコナンに光彦も目を丸くする。 「コナン君は披露宴も出席するんですか?」 「そんな話、初耳だよ?」 「一人だけフランス料理のフルコースにあり付くなんてズルいぞ、コナン!」 「え、あ……」 しまったと言いたげに言葉を詰まらせるコナンの態度を誤魔化すように哀は肩をすくめると、「仕方ないじゃない?江戸川君は蘭さんと昔同居してたんだもの。そもそも私達が結婚式に呼ばれたのだって彼が蘭さんにとって弟みたいな存在だからでしょうし。それより……せっかくリクエストのレモンパイを焼いたのに……要らないの?」と、不満そうに三人を見た。 コナンが披露宴に出席する事を三人に話さなかったのは彼が『工藤新一』として結婚式と披露宴に参列するからだった。コナンにとっては『工藤新一』としての過去も『江戸川コナン』としての現在も全て一つのものに他ならなかったが、『新一』には幼馴染として、『コナン』には姉代わりとして接していた蘭にとっては真実を知った今となっても別々のものだったようで、彼の元に届いた招待状にははっきりと『工藤新一様』と書かれていた。それはつまり幼馴染の『工藤新一』として新しい自分の門出を祝って欲しいという蘭からのメッセージに他ならないだろう。 テーブル下の収納スペースに置かれている『工藤新一様』と書かれた純白の封筒に哀はフッと苦笑した。 (やっぱり彼女が絡むとダメね、私……) ――オレは『江戸川コナン』として蘭ではなく灰原を選んだんだ。自分の心に嘘はついてねえし、後悔なんかしてねえぜ?―― ここ数年、哀がコナンから繰り返し聞かされて来た台詞だった。勿論、彼を信じていない訳ではないし、言葉の端々や仕草からも大切にされている事は実感として伝わって来る。が、普段の会話の中で『毛利蘭』の名前が挙がったり、彼女の姿を街中で見かける度、何とも言えない居た堪れなさに苛まれる事も否定出来なかった。蘭本人の口から結婚する事を聞かされ、彼女の幸せな姿を目の当たりにする事でそれも克服出来るだろうと思っていたのだが、現実は皮肉にも式当日が迫るにつれ、今ならまだ間に合うのではないかという恐怖心のようなものに襲われるようになってしまったのである。 (でも……もう解毒剤のデータ―は……) 思わず唇を噛んだその時、ふいに「ちょうどいい機会だ。オメーら三人に話しておきてえ事があるんだけどよ」というのんびりした声が聞こえたかと思うと哀の視界から招待状が消えた。 (え……?) 気が付けばいつの間にかそれはコナンの手によってテーブルの上へと移動している。 「『工藤新一様』……?」 「ああ、そういえばコナン君は新一お兄さんとは遠縁でしたね」 「そっか、コナン君、新一お兄さんの代理で……」 「代理じゃねーよ」 「え…?」 「このオレが『工藤新一』なんだ」 「え……エ〜ッ!?」 「それって……一体……」 コナンの思いがけない台詞に絶句する光彦と歩美の様子に「ちょ、ちょっと……!」と哀は抗議の声を上げた。その哀を制するようにコナンは穏やかな微笑みを浮かべると空になったグラスを彼女に差し出した。 「悪ぃ、灰原。アイスコーヒーのお代わりくれねえか?話が長くなりそうだ」 「江戸川君……」 哀は黙ってグラスを受け取り、一人話が読めない様子の元太に「小嶋君、悪いけどちょっと手伝ってくれる?」と声を掛けるとキッチンへ向かった。 「さて……どっから話すと分かりやすいんだろうな」 コーヒーグラスを手に嬉しそうな表情を見せるコナンに哀はハラハラと気を揉むばかりだった。まるで他人事のような口調に苛々さえ感じてしまう。 「あの……コナン君、先ほどの言葉を素直に解釈するとコナン君と工藤新一さんは同一人物だという事になりますけど……」 「ああ、紛れもない事実だ。オレの本当の名前は工藤新一。七年くらい前まで日本警察の救世主と謳われた高校生探偵さ」 「その高校生探偵の新一お兄さんがどうして小学一年生の姿に……」 「七年前のあの日……オレはトロピカルランドで黒ずくめの服を着た男が物陰で怪しげな取引をしている現場に居合わせたんだ。携帯カメラで写真を撮りながら息を殺してその様子を伺ってたんだが……あいにくソイツにはもう一人仲間がいてさ、背後からいきなり殴られてそのまま気絶しちまったんだ」 「……なんか伝説の名探偵『工藤新一』のイメージ狂うよな。出会った頃のコナンそのまんまじゃねーか」 元太の容赦ない突っ込みに一瞬面白くなさそうに顔をしかめたコナンだったが、フッと苦笑すると「バーロー、あの頃のオレを今のオレと一緒にすんなよな。『工藤新一』という男は今のオレから見ればガキ以外の何者でもなかったんだからよ」と肩をすくめた。 「17歳だったオレが小学一年生の姿になっちまったのはオレを殴った男に飲まされた薬が原因だ。APTX4869と呼ばれていたその薬は奴らの間じゃ死体から毒が検出されない完全犯罪が可能な代物と認識されていたようなんだが……不幸中の幸いでオレは身体が縮んだだけで済んだんだ。もっともさすがのオレも身体が縮むなんて普通じゃありえない状況に頭がパニクッちまって……博士に諭されるまで事の重大さに気付かなかったんだけどな」 「事の重大さって……?」 「オレを殺そうとした奴らは薬でオレが死んだと思ってる訳だろ?そのオレが生きてる事がバレたら再び命を狙われる事になる。ましてや小学生の身体に縮んだなんて事が世間に知れたら……」 「なるほど。そこで正体を隠し、仮の名『江戸川コナン』を名乗って小学生として生活する事になったんですね?」 「そういう事」 「ひょっとして新一お兄さんに毒薬を飲ませた男って……5年くらい前に世界中を震撼させたあの組織の人間だったんじゃ……?」 「さすが光彦、話が早いな」 「そりゃ……ネットで散々騒がれていましたからね。『一連の事件解決に裏で糸を引いていたのは失踪中と噂される高校生探偵『工藤新一』だって」 「そうだったな……」 コナンはフッと苦笑すると一息置くようにコーヒーグラスを口に運んだ。歩美と元太はあまりに突飛な話の展開に黙ってコナンと光彦の会話に耳を傾けている。 「それはそうと……無事あの組織を壊滅させたのにどうして元の身体に戻らなかったんですか?蘭お姉さんの事もあったはずですけど……」 「勿論、戻るつもりだったさ。APTX4869のデータも手に入り、解毒剤も無事完成した。けどよ……コイツに出会っちまったからな」 「コイツって……まさか……」 「ああ、灰原もオレと同じなんだ。本名は『宮野志保』。元々は例の組織でも有数の化学者で、APTX4869もコイツが開発したんだ」 「哀が……あの組織の……!?」 「おい、どういう事だよ、話が全然見えねえぞ!」 驚きのあまり息を飲む元太と歩美の横でさすがの光彦も「……ちょっと待って下さい」と、頭が痛いと言いたげにこめかみを押さえている。 「……工藤君、少し休憩を挟んだ方がいいんじゃない?」 哀の冷静な指摘にコナンは「あ……」と短い声を上げた。 「さすがにもうコーヒーは……」という光彦の言葉に哀が選択したドリンクはアイスココアに生クリームという疲れた頭には優しいメニューだった。一瞬でグラスを空にする元太にいつもなら『そんなに一気に飲んだら太るでしょ!?』と突っ込む歩美も大人しく話の続きを待っている。 「えっと……どこまでオメーらに話したっけ?」 そんな中、一人呑気な声を上げるコナンに光彦はコホンと小さく咳払いすると「今までの話を要約すると……コナン君の正体は伝説の名探偵、工藤新一。例の暗躍組織の人間に飲まされた薬が原因で小学一年生の身体になってしまった……そして灰原さんも本当はボク達より遥かに年上で元々は例の暗躍組織の化学者であり、工藤新一が飲まされた奇妙な効能を持つ薬の開発者……これで合ってますか?」 「ああ」 満足そうな笑みを浮かべるコナンの横で居心地悪そうな表情の哀に「組織の人だった哀ちゃんがどうして博士の所に……?」という素直な質問をぶつけたのは彼女の親友を名乗る歩美だった。 「それは……」 話の内容が普通の人間が暮らす平和な世界とはあまりにかけ離れた事だけに一瞬躊躇する哀だったが、コナンがここまで話してしまったからには後戻りも出来ない。 「……殺されたのよ、たった一人の肉親だった姉を……組織の仲間に……」 「えっ!?」 「姉は……姉と私を組織から解放するという組織幹部の言葉を信じて十億円強奪という恐ろしい犯罪に手を染めてしまったの。バカよね、あの組織が約束なんて守るはずがないのに……」 「哀……」 「私に出来た唯一の造反はAPTXの研究を更迭する事だったわ。勿論、そんな真似が許されるはずもなく私はガス室に拘束された……姉を失い、おまけに自分が作った薬が多くの人の命を奪ってしまった事を知った私に生きる意味なんて何も残っていなかったわ。だから……隠し持っていたAPTX4869を……」 「自殺しようとして飲んだら身体が縮んでしまった訳ですね?」 「ええ……皮肉でしょ?」 自嘲的に微笑む哀にどんな言葉を返したらいいのか分からない様子の歩美だったが、「だから哀、出会った頃は……」と思い出すように呟いた。 「哀、知り合って間もない頃、自分の命なんか惜しくないって感じの行動ばかり取ってたじゃない?私、それがどうしても理解出来なかったんだ。美人だし頭もいいし優しいのにどうして?って……」 「毒薬を作った私が生きる希望を持つなんておこがましいと思わない?」 「でも……哀は毒なんか作ってるつもりなかったんじゃ……」 「勿論よ。でも……だからといって私の罪が許される事にはならないわ。組織の命令とはいえ私の中に薬品開発を楽しんでいた私がいた事も否定出来ないし……私が作った試作品が殺人の道具に使われた事は紛れもない事実なの」 「哀……」 「だから組織を壊滅させ、APTX4869の解毒剤を完成させたら元の身体に戻って罪を償うつもりだった。だけど……それは許される選択ではなかったの……」 「どういう事……?」 「罪を告白して刑に服せば私自身は楽になれたでしょうね。でも……そんな事をすればAPTX4869という薬の事も世間に明るみになってしまう……APTXの研究に関わった化学者としてあの薬の存在だけは絶対に公にする訳にはいかなかったのよ」 溢れ出る感情を押し殺すように唇を噛む哀に代わり「APTXという薬の事を知るには人類はまだ幼すぎるんだよ」と呟くとコナンは彼女の隣へと移動した。 「灰原、大丈夫か?」 「ごめんなさい、当時の事を色々思い出しちゃって……」 「少し休んだ方が……」 心配そうに顔色を伺うコナンに哀は黙って首を横に振ると、心を落ち着かせるようにアイスココアを一口含んだ。 「ありがとう、でも……ここで話を止めてしまったら改めて話す勇気なんてとても……」 その言葉にコナンも黙って哀の意思を尊重する。 「そんな訳で私の『灰原哀として生きる』という選択は周囲にもすんなり受け入れられたんだけど……解毒剤が完成したら取る物も取り敢えず服用するものだとばかり思っていた彼が『元の身体に戻るかコナンのまま生きるか少し考える時間が欲しい』なんて言うんだもの。驚いたわ」 「そういえばさっきコナン君、戻るつもりだったのに戻らなかったのは灰原さんに出会ってしまったからだって言ってましたよね?それってつまり……」 「ああ、オレは蘭ではなく灰原を選んだんだ」 「でも……蘭お姉さん、あれだけ新一お兄さんを信じて待ってたのに……酷いよ……」 「ああ、オレもそう思うよ。散々待たせておいて結局振っちまったんだからな」 「……」 「けどよ、オレ、自分の気持ちに嘘はつきたくなかったんだ。他に好きな女がいるのにその気持ちを押し殺して蘭と付き合うなんてオレにはとても出来なくてさ……」 「人間誰しも心変わりがあって不思議はないと思いますけど……あれだけ蘭さんを大切に想っていた新一お兄さんがどうして……?」 「色々挙げればキリはねえけど……一番の理由は灰原といる時の方が素のオレでいられたからだろうな。コナンになっちまう前、オレは自分でも気付かないうちに『工藤新一』というブランドに縛られてたんだ。蘭も含め周囲の人間から祭り上げられ、おまけにその状況に溺れてたんだから……今振り返ると本当、恥ずかしい話だぜ」 「コナン君の選択……ボクは間違ってなかったと思いますよ。ありのままの自分でいられるって最高だと思いますから。それに……気持ちが残っていないのに付き合うなんて相手の女性に対して失礼ですし」 「サンキュ、光彦。もっとも……オメーに言われるのは少々複雑だけどな」 「どうしてですか?」 「オメー、昔、蘭に相談したそうじゃねーか。歩美と灰原、二人の女を同時に好きになっちまったってよ」 「ちょ…!歩美ちゃんと灰原さんが揃っている前でそんな話暴露しなくても……!」 慌てふためく光彦に歩美が「確かに……蘭お姉さんも他に好きな人がいるのにそれを隠して自分と付き合って欲しいなんて思わないかも」とジトっとした視線を送ると、「ま……哀が相手じゃ普通の女の子に勝ち目はないよね」と肩をすくめる。 「どうしてそう思う?」 「世間一般の男の子だったら蘭お姉さんで充分だと思うよ?でも……新一お兄さ……ううん、コナン君は探偵だから。パートナーの女性に望むものも知識の量とか冷静な判断力とかそういうものだったんでしょ?そういう意味では哀に敵う女の子なんてそうそういないだろうし」 「灰原ほど度胸ある女もそうはいねーしな!」 それまで黙ってコナン達の会話に耳を傾けていた元太がニカッと笑うとすっかり冷めてしまったレモンパイに手を伸ばした。 「小嶋君、良かったら温め直して来るけど?」 「お、悪ぃな」 パイの皿を手に哀がリビングから姿を消すのを見届けるとコナンは「アイツには言ってねえけど……本当はもう一つ理由あるんだ」と三人を見た。 「もう一つ?」 「オメーらなら分かるだろ?アイツが見かけほどタフな女じゃねーって事」 「うん」 「まあ……」 「ですね……」 「仕方がない事とはいえ償えない過去が一生アイツに圧し掛かる事は簡単に推測出来るだろ?だからこそ運命共同体であるオレが一緒にその罪を背負ってやりたかったんだ。もっとも……その選択はアイツにオレの罪を背負わせる事にもなるんだけどな」 「コナン君の罪って……?」 「探偵は事件を解いてお終いじゃねーんだ。加害者にだって家族や親戚、友人がいる。罪を暴けば時と場合によってはそういう人達から恨まれる事だってあるかもしれねえ。その矛先がオレに向けられるだけなら問題ねえけど……そうとは限らねえだろ?」 「コナン君の周囲にいる人が標的になる……そういう事ですね?」 「ああ。アイツならそういうリスクを一緒に背負ってくれるんじゃねーかと思ってさ」 「いいんじゃねえの?ギブ&テイクの方が灰原だって嬉しいだろうぜ?」 元太の意見にコナンが満足そうに微笑んだその時、「お待たせ」と哀がリビングへ戻って来た。 「な、何よ、歩美……ニヤニヤしちゃって……」 「フフッ……哀、コナン君に愛されてるな〜と思ってv」 「ちょっと、あなたあの後一体何を……」 「外堀を埋めてたのさ」 「外堀?」 「『江戸川コナン』にとって蘭の事は過去にしか過ぎないし、今のオレは未来しか興味ないって話してたんだ。オメー以外の人間にも同じ事を宣言すれば説得力も増すってもんだろ?」 「説得力…?」 「オメーの事だ、どーせ今ならまだ間に合うとかくっだらねえ事考えてるんじゃねーのか?」 「工藤君……」 黙り込んでしまう哀にコナンは小さく微笑むと「それはそうと……」と、真面目な表情で元太達三人を正面から見据えた。 「長い間オメーらを騙して来た事は謝る。こんなオレ達だけどさ、これからも今まで通り接してくれると嬉しいんだけどよ」 「そんなの決まってるよ!」 「騙されたなんて思っていませんよ。お二人の秘密を打ち明けて頂けて光栄です」 「オレ達を信じてくれたって事だもんな!」 三人の口々から出た言葉に哀は「ありがとう……」と小さな声で呟くと涙を隠すように俯いてしまった。 「それにしても……最初は敵同士だった二人が魅かれあって恋人になるなんてハリウッド映画みたいで素敵だよね!」 「現実は映画とは違うぜ?中身は高校生なのにガキのフリしてたんだ。どれだけストレス溜まるか想像してみろよ」 「そういえばコナン君、最初の頃はいつもかったるそうな顔してましたもんね」 「けどよぉ、身体が高校生で頭が小学生になるよりマシだったんじゃねーか?」 からかうような元太の台詞にコナンは黙って苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。 「新一」 披露宴会場を出たコナンを呼び止めたのは色ドレスに身を包んだ花嫁だった。 「よぉ、蘭」 「今日はありがとう……ゴメンね、我儘言っちゃって。歩美ちゃん達に怪しまれなかった?」 「怪しむも何も……いい機会だと思ってアイツらには全て打ち明けたんだ」 「そう……驚いてたでしょ?」 「そりゃ常識では考えられない話だからな」 コナンはフッと苦笑すると「それより……」と蘭を正面から見た。 「新出先生と幸せにな」 「ありがとう、新一」 「オメーの幸せそうな姿見てオレもホッとしたぜ。これで安心して幼馴染の『工藤新一』最後の役目を果たせたってもんだ」 「新一……」 「そんな顔すんなって。『江戸川コナン』として生きるからには絶対『工藤新一』を超える男になってみせるからよ」 清々しい表情できっぱり言い切るコナンに蘭が「あ……そうだ。私、新一に言わなくちゃいけない事があったんだ」と思い出したように笑顔を見せた。 「新一に別れを告げられた後、私なりに色々考えたんだけど……新一と私は幼馴染のままで良かったんだって気付いたの。だって新一には無理でしょ?いつも傍にいて私を安心させてくれるなんて事……」 「……オレは探偵だからな」 「今日、私達はこうして仲の良い幼馴染としてさよなら出来る……あの時、新一が自分の気持ちを正直に話してくれた事、感謝してるから……」 「蘭……」 「じゃあ私、行くね」 満面の笑顔で花婿の元へ駆け寄る蘭の後姿にコナンは柔らかな笑みを浮かべると哀達が待つ阿笠邸へ向けて歩き出した。 あとがき 「久し振りにリク関係なく書いてみよう」という事で、以前から書きたいと思っていた「探偵団に正体バレする話」にトライしました。ここのところほんわかした作品が続いたのでシリアスなものが書きたくなったのかもしれません(基本リクって幸せなものが書きたいのです) ぱおんぬ様の作品「大人にならなかった私たち。」シリーズにおけるコナンの台詞「何つってもオレは江戸川コナン!平成のホームズと呼ばれた東の名探偵、工藤新一を超える男だからな」という台詞があまりに素晴らしく、ニュアンスを変えて使わせて頂きました(原作じゃ工藤に戻って成長もリセットだもんなーー;) ぱおさん、無断借用すみません@土下座 お陰で江戸川がいつもに比べて少々ですがカッコよくなっております(←当社比) 正体バレは長編で一度書いているので差をつけたつもりですがいかがでしょう? ![]() |