しあわせの風景



西の空を染める茜色が暗闇に変わろうとしている酉の刻。
愛車のフロントガラスに自宅が映った瞬間、コナンは思わず「ゲッ…!」と声を上げた。
(そうだった、すっかり忘れてたぜ……)
静岡で起きた事件に関わり、家を留守にする事一週間。久し振りに頭を捻った難事件に区切りを付け、夕飯の席を設けたという地元警察の好意を振り切り、高速を飛ばして帰って来たのは愛妻の美味しい手料理が恋しくなったからに他ならない。が――
<二、三日研究室に泊まる事になりそうです>
一昨日の夜、哀から届いたメールの内容を思い出し、コナンは盛大な溜息をついた。
(……ったく。こんな事なら横溝警部の申し出を受ければ良かったな……)
今更愚痴を零したところで仕方ない。哀がコナンの仕事を尊重し、好き勝手に行動させてくれる以上、自分も彼女の仕事を理解すべきだという事くらい分かっている。
(仕方ねえ、ポアロへでも行くか……)
この時間ならまだ大丈夫だろうと腕時計から視線を上げたその時だった。
「あ、コナン君!」
聞き覚えのある声にその方向へ視線を向けると小嶋歩美が工藤邸の門の前から駆け出して来た。よくよく見ると彼女の細い肩にかけられた抱っこ紐には生後半年の長男、陸の姿もある。おまけに手にはキャリーバッグが握られていた。
「歩美、オメー、一体……?」
「コナン君、家の中真っ暗だけど……哀は?」
「アイツ、今夜は仕事で帰って来ねーぜ。んな事より……なんだよ?その恰好。まるで家出して来たみてえだな」
コナンの指摘に歩美は頬をムスッと膨らませると「そう、私、家出して来たんだ」と悪気ない様子で言い切ってくれる。
「だからしばらくこの家に置いてくれない?あ、代わりと言ってはなんだけど家事は分担するから。その様子だと夕飯まだなんでしょ?」
「な〜にが家出だよ。どーせ元太と夫婦喧嘩したんだろ?」
呆れたように呟くコナンに歩美はキッと鋭い目つきになると「そんなんじゃないもん!」と彼を睨んだ。大きな瞳に薄っすらと涙が浮かび、さすがのコナンもそんな単純な話ではない事を悟らされる。
「……ったく。とりあえず家ン中入れよ」
コナンは車から降りると歩美の手からキャリーバッグを受け取り、玄関の鍵を開けた。



「悪いけど今夜は無理。確かに歩美は私の親友よ。でもあなたの親友でもあるじゃない。私の都合がつかない以上、あなたが力になってあげてくれないと……」
何とか携帯は繋がったものの、出来れば今夜は帰宅してもらいたいというコナンの訴えはあっさり却下された。
「そりゃ……オレだって力になってやりてえけどよ、話が核心に触れると上手い事はぐらかされちまって……ったく、家出するくらいなら実家に帰ればいいのによぉ……」
「それは無理な相談ね。歩美のご両親、今、確か海外旅行へ行ってみえるはずだから。あ、円谷君の所へ追い払おうとしても無駄よ。今、マリアちゃんが二人目の子を妊娠中だから。歩美もそれが分かってて私達の所へ転がり込んで来たんじゃないかしら?」
自分を追い込むように言う哀にコナンは「だったらどうすりゃいいんだよ?」と仏頂面で呟いた。
「とりあえず今夜の所は何も聞かないで家に置いてあげたら?」
「オメーな……オレだって一応男なんだぞ?歩美と二人っきりで一晩過ごせって言うのかよ?」
「あなた相手に間違いを犯す程歩美もバカじゃないわよ。大体昔、歩美が小嶋君と付き合っていると知った時、父親みたいに不貞腐れてたのはどこのどなただったかしら?」
「……」
反論の余地を奪われ、コナンはムスッと黙り込むしかない。
「それで?今、歩美は?」
「あ、ああ、陸君を寝かし付けに二階の客間へ行ってるぜ?」
「そう……歩美が赤ん坊の陸君を連れてまで家出するなんて単純な我儘が原因とは思えないの。私が帰るまであの子の事よろしくね」
何だか夫である自分以上に歩美が大切に思われているようで少々面白くないが、今の哀があるのは歩美のお陰と言っても過言ではない。コナンは溜息をつくと「わーったよ……んじゃオメーから元太にその旨メールしておいてくれないか?」と肩をすくめた。
「確かに小嶋君があなたからのメールに大人しく従うとは思えないわね。分かったわ、『歩美と陸君は家で預かるから一晩だけそっとしておいてあげて』って私からメールしておくから」
「頼む」
それだけ言って通話を切るとコナンは二階へと上がって行った。
「歩美、いいか?」
「コナン君!?あ、ちょっと待って……」
何やら室内でゴソゴソ物音が聞こえたのも束の間、歩美がTシャツの裾を引っ張りながらドアを開けて顔を出した。
「ゴメンね、陸におっぱいあげてたから」
「……」
「コナン君?」
「オメーな、元太相手ならともかく他の男にあんまりそういう事……」
頬を赤く染め、そっぽを向くコナンに歩美がプッと吹き出す。
「ひょっとして……ここのところ哀とご無沙汰で欲求不満溜まってる?」
相変わらずおませな歩美にコナンは小さく咳払いすると「……ったく。オレをからかってる場合か?」と彼女を睨んだ。
「元太には哀がメールするってよ。夜も遅いし今夜は泊ってけ」
「ありがと!恩に着る!」
「それはそうと……夫婦喧嘩なんて単純な話じゃないって言ったよな?一体元太と何があったんだ?」
「それは……」
「そりゃ……男のオレより哀の方が相談しやすいのは分かるけどよ、アイツ、今夜はどうしても帰れないって言うんだ。それに……一応オレだってオメーの幼馴染なんだからよ」
「コナン君を信用してない訳じゃないよ。でも……」
「でも?」
「……ゴメン、やっぱコナン君と哀、二人揃って話を聞いて欲しいの。男と女じゃ意見に違いもあると思うし」
ニッコリ笑ってそれだけ言うと歩美は「それじゃコナン君、おやすみ」とさっさとドアを閉めてしまった。



翌朝。長期出張でグッスリ眠っていたコナンを叩き起こしたのは一階のリビングから聞こえて来た賑やかな声だった。
(哀……?)
昨夜の様子から数日間は帰って来ないだろうと予測していただけに一気に頭が覚醒する。
コナンは慌ててベッドから起き上がると服を着替え、階下へと降りて行った。リビングへ入って行くと元太と光彦が来客用のソファに座っている。仏頂面で「よぉ」とだけ呟く元太と「あ……コナン君、お邪魔してます」と引きつった笑顔を見せる光彦に返す言葉を失ったその時、背後から「あら、起きたの?」という声が聞こえた。
「おい、一体何がどーなってんだ?」
「どうもこうもないわよ。朝っぱらから二人で研究室に押し掛けて来て『歩美に会わせてくれるまでここから動かない』って駄々をこねるんだもの」
5人分の珈琲カップをテーブルに並べながら苦笑交じりに答える妻にコナンは『何かあったら工藤邸』という高校時代からの習慣を思い出し、溜息をついた。
「元太はともかく……光彦、なんでお前まで一緒なんだよ?」
「元太君に泣き付かれたからに決まってるじゃないですか」
「おい光彦、誰が『泣き付いた』って?」
「あれ?『灰原相手に一人じゃとても敵わない』って泣きそうな顔で家を訪ねて来たのはどこの誰でしたっけ?」
からかうような台詞に元太は面白くなさそうに顔をしかめると「それより……迷惑かけたな、コナン」と頭を下げた。
「灰原から聞いたぜ。お前、昨夜は出張帰りだったんだろ?それなのに歩美が押し掛けて……悪かったな」
「バーロー、何他人行儀な事言ってんだよ?んな事より歩美のヤツ、夫婦喧嘩なんて単純な話じゃないって言ってたけど……アイツが家を飛び出した原因は何なんだよ?」
「んな事こっちが聞きてーよ。親父もお袋も……オレだってアイツの事を想って色々考えてるのに急に怒り出して……」
「は…?」
「……どうやら歩美から話を聞かない事には話が始まらないようね」
「そうだな。オレ、ちょっと呼びに行って――」
「簡単に言ってくれるけど……あの子、小嶋君が来てると知ったら部屋から出て来ないかもしれないわよ?」
「歩美だってそこまでガキじゃねーだろ」
コナンは肩をすくめるとリビングを出て二階の客間へ向かった。



コナンから元太が哀の職場まで押し掛けた事を知ると歩美は「信じられない…!」と大きな目を更に大きく見開いた。
「それで……コナン君、哀は?仕事に戻ってくれた?」
「いや、さすがのアイツも今のオメーら夫婦を放置出来ねえみたいだぜ?」
「……」
コナンの言葉に歩美はしばし沈黙を守っていたが、ベッドで眠る一人息子をそっと抱き上げると部屋を出て階下へ降りて行った。
そんな歩美の様子にコナンはホッと息をついた。幼い頃から一緒に過ごす時間が多かっただけに彼女の性格は充分把握しているつもりだ。歩美にとってこういう時、一番避けたい展開は親友である哀に迷惑をかける事だろう。元太が哀の仕事を邪魔したと知れば頑固な歩美も動くはず……そんなコナンの読みはどうやら正しかったようだ。
歩美に続いて階段を降り、リビングへ入って行くと珈琲のいい香りがコナンの鼻をくすぐった。哀が用意してくれたのだろう、テーブルの上には種類こそ少ないもののお茶菓子も並んでいる。歩美は面白くなさそうな表情でクッキーを頬張る元太の隣に腰を下ろすと「哀に迷惑かけるなんて……最低!」と夫を睨んだ。
「よく言うぜ、お前だってコナンに迷惑かけたくせに……!」
「仕事の邪魔はしてないもん!」
「迷惑かけた事に変わりねーだろーが!」
「それは……」
言葉に詰まり、プイッとそっぽを向く歩美にコナンは「そんな事より……」と二人の正面のソファに腰を下ろした。
「元太、お前は歩美の家出に全く心当たりねえんだろ?」
「あ、ああ……」
「……って事は歩美、お前から話を聞かせてもらうしかねーよな?」
「……」
「歩美、オメー言ったじゃねーか。オレと哀、二人揃って話を聞いて欲しいってよ。せっかく哀も帰って来たんだし……」
「……」
「ひょっとして……元太がいると話しにくい事なのか?」
「べ、別にそういう訳じゃ……」
気まずそうな表情で言葉を濁す歩美にコナンが溜息をついたその時、「歩美、小さい頃あなたが私に言った言葉を覚えてる?」と哀が口を開いた。
「通り魔事件の容疑者に会おうとしたあなたを止めた私に言ったじゃない。『逃げたくない』って。今のあなたが一番逃げちゃいけない相手は小嶋君だと思うけど?」
「哀……」
「この私にどんな事にも正面から立ち向かう勇気を教えてくれたのはあなたよ。そのあなたがだんまりを決め込むなんて……ガッカリだわ」
「……」
哀の言葉に歩美は隣に座る元太と腕の中で眠る陸に視線を彷徨わせると「……分かった。最初から話すよ。コナン君、哀、私、間違ってると思う?」と真剣な表情になった。



一人息子の定期検診を終え、自宅へ帰った歩美を出迎えたのは「お疲れさん。暑かっただろ?」という舅、元次の笑顔だった。
「冷蔵庫に麦茶が冷えてるぜ?」
「ありがとうございます。これだけ暑いと本当はビールをグイッとやりたい所なんですけど……それよりお義母さんは?」
「夕食の買い出しに行って来るってよ。『歩美さん、陸の検診で疲れてるだろうから今夜は私が作るよ』って言ってたぜ?」
姑の気遣いに「わぁ、助かります」と笑顔を見せる歩美に元次はニカッと笑ってみせると「それよりこれ見てみな」と丸まった紙を彼女に差し出した。
「何ですか?これ」
「この前話しただろ?この家と店舗を丸ごと建て替える計画をよ」
「え…?お、お義父さん、あの話……本気だったんですか?」
「当ったり前だろ?孫も産まれた事だし、この家もあちこちガタが来てるしな」
「じゃあこれ……」
「おう、さっき建築屋が持って来た設計図よ。一階が店舗、二階が俺達夫婦で三階がオメーら三人って感じになってるぜ」
抱っこ紐を解いて熟睡している一人息子を畳の上へ横たえると歩美は図面を広げた。コンピューターグラフィックで描かれた未来予想図に思わず「わぁ…!」と感嘆の声が上がる。
「気に入ったみてえだな」
「凄く贅沢な間取りですね。ワインカウンターまであるなんて素敵……!」
「せっかくソムリエ資格持ってんだ。活かさないと勿体ねえだろ?『将来は歩美さんが店長になるんだから女性が一人でも入りやすい店にした方がいいんじゃない?』って母ちゃんも言うからよ」
「え…?」
「中学の時だったか?元太が警察官になりたいから店は継げないって言った時、口にこそ出さなかったが母ちゃん随分落胆してたからな。歩美さんが継いでくれる事が嬉しくて仕方ないのさ」
「お義母さん……」
「あ、そうそう、新しい店の名前は歩美さんに決めてもらうとも言ってたぜ?」
「新しい店の名前って……屋号変更するんですか?」
「『今時"小嶋酒店"なんてねーんじゃねーか?』って元太の奴に言われちまったみてえでよ、改装オープンに合わせて変更したらどうかって話になったんだ。どうせなら未来の店長に決めてもらいたいんだろ?」
「……」
「……歩美さん?」
「あ、すみません。あまりに話が突然で驚いてしまって……私、陸を寝かし付けて来ますね」
歩美はそれだけ言うと元次に頭を下げ、店の隣に位置する居住スペースへ向かった。



「で?それがどうしたっていうんだよ?親父もお袋もお前の事を色々考えて――」
「そんな事分かってるよ!」
ふいに大声で自分の台詞を遮られ、元太はギョッとしたようにその先の言葉を飲み込んだ。
「でも……でも……私、大好きだったんだもん!小さい頃から元太君が『小嶋酒店をヨロシク!』って自慢そうな笑顔で言ってた姿が……お店で働くご両親を誇りに思ってるんだって伝わって来て大好きだったの!それなのに……その元太君がお店の名前をバカにするような事言うなんて……私、ショックだったんだから……!」
「歩美……」
少しの間、妻の本音に虚を突かれたような表情で言葉を失っていた元太だったが、小さく肩をすくめると「……ったく、お袋もいよいよボケたか?」と苦笑した。
「歩美、屋号の件はお前の誤解だ。言い出しっぺはお袋だぜ?」
「え…?」
「『"小嶋酒店"じゃ若い女性にはビールと日本酒と焼酎しか扱ってないイメージじゃないかねえ?』って尋ねられたから『確かに今時の名前じゃねーよな』って正直な感想は言ったけどよ」
「じゃ、じゃあ……」
「色んな人と話してるうちにお袋の中でオレが言った事になっちまったみてえだな」
「……」
「……なるほど?伝言ゲームだったって訳ね」
思いがけない展開に何も言えなくなってしまった歩美に代わって呟く哀にコナンは「みたいだな」と肩をすくめた。
「元太、お前は店の名前に関してどう思ってんだ?」
「どうもこうも……確かに店長は親父だけどよ、店の経営を影でずっと支えて来たのはお袋だ。そのお袋が変えたいって言うなら変えればいいと思うぜ?オレが口出し出来る話じゃねーよ」
「話を聞く限りだと小嶋君のお母さん、お店のイメージを重要視されているみたいだけど……」
「女性客が一人でも入りやすい酒屋にしたいみたいだぜ?『若い女の子はお酒もファッション感覚だろうから女性向けのスパークリング日本酒やちょっと値段は張るけどベルギービールとか外国製の洒落た物まで揃えたい』だってよ。男のオレにはよく分かんねえけど……女ってそういうものなのか?」
「さあ、どうかしらね?」
思わせぶりな笑みを浮かべる哀にコナンは「……どうやらお前が腰をすえて話し合うべき相手は元太の母さんみてえだな」と歩美を見た。
「……」
「そうしょげるなって。人の言葉を正面から素直に信じる所はオメーの長所でもあるんだからさ」
「そうね、少なくとも何事も疑ってかかるどこかの誰かさんよりよっぽどマシよね」
「オイ……」
コナンと哀のやり取りに歩美はようやくクスッと笑顔を見せた。
「お義母さんの気持ちは嬉しいし、お義母さんにはお義母さんなりの意見もあるだろうけど……私、自分の意見を言ってみるよ」
「それがいいと思うぜ?」
コナンの言葉に力強く頷く歩美に元太も笑顔になる。
「コナン、灰原、迷惑かけたな」
「何水臭い事言って……何ゴソゴソやってんだ?光彦」
「あ……マリアから歩美ちゃんが心配だから今からここへ来るってメールが入ったので慌てて返信してたんです。『もうその必要はなくなりました』って」
「ゴメンね、身重のマリアにまで余計な気を遣わせちゃって……」
「何言ってるんですか、マリアにとって歩美ちゃんは東京へ来て初めて出来た友達に等しいんです。気にかけるのは当たり前じゃないですか」
「ありがとう、光彦君」
「それじゃそろそろ帰るぞ。光彦、家まで送るぜ?」
「それじゃお言葉に甘えて……」
「灰原、邪魔したオレが言うのもなんだけどよ、お前、仕事途中なんだろ?研究室まで送るぜ?」
「そのつもりだったんだけど……疲れも溜まってるし、今日はこのまま家でゆっくりする事にするわ」
「そっか……本当、悪い事したな」
「気にしないで。久し振りに5人揃って集まれた事だし」
「とりあえず屋号の件が落ち着いたら連絡しろよな」
コナンの言葉に「おう」と答えると元太は歩美と光彦を促し、工藤邸を後にした。



玄関で三人を見送り、リビングへ戻るとコナンは疲れたと言いたげにリビングのソファへ身体を沈めた。
「雨降って地固まるってところかしら?」
クスッと笑ってそう呟くと哀が淹れ直した珈琲を差し出して来る。
「ま、アイツらの場合、大抵こういうパターンだな。お互いを思いやった結果が喧嘩になっちまうっていう……」
「ある意味幸せよね。夫婦喧嘩って普通は互いの主張がぶつかって起こるものだから」
「世の中の夫婦が皆アイツらみたいだったらオレの仕事も減るんだろーけど……」
「そうかもね」
「ま、オレとオメーみたいに常日頃から互いに言いたい放題な夫婦も珍しいと思うけどな」
「あら、私は言いたくても言わない事もあるわよ?」
「『事件にかまけて無茶ばっかりするな』……だろ?」
「あら、分かってるんじゃない。だったら……」
そんな言葉とともにいきなり背後から左腕を捻じり上げられ、コナンは思わず「イテッ…!!」と顔をしかめた。
「こういう怪我をして帰って来ないようにして欲しいものね」
「……気付いてたのかよ?」
「私を誰だと思ってるの?ホラ、さっさと上着脱いで」
おそらく哀が仕事に戻らなかったのは自分の怪我を心配しての事だろう。相変わらずの不器用な優しさにコナンはフッと微笑むと「へいへい」と主治医の指示に従った。



あとがき



サイト8周年記念リクエストで「少年探偵団がそのまま大きくなって大人になった話」。
ネタが降って来た当初は哀あゆで書いたら可愛いかな〜と思っていたのですが、コナンが巻き込まれた方が面白そうだと思い(←)、こんな展開になりました。タイトルはELTの曲名から。あのお二人が醸し出すなんとなく幸せな感じを表現したくてお借りしました。
リク主様の灰原に言わせてみたい台詞も入れられたら良かったのですが、どちらかというとハードな話向けなものだったのでこの展開では無理でした。実力不足で申し訳ありませんーー;) リクエストありがとうございました。