Prologue


「なんや、出かけとるんか。ほな、帰って来るまで時間潰して待ってるわ」
さして残念そうでもない口調で電話を切ると、服部平次は改札口に向かって歩き出した。電話口で新一が何か言いかけたような気もするが、留守だと分かればそれでいい。
「ほんなら今日もお隣で待たしてもらいましょか」
足取りも軽く平次が向かったのは先程まで電話していた新一の家……ではなく、隣の阿笠邸だった。


「こんにちは〜」
チャイムを押し、中から見えるようカメラの前に立ってしばし待つ。この家の家主は出かけているが、同居人の少女が在宅している事はしっかりリサーチ済みだ。
玄関の扉が開けられ、出て来た少女に視線を合わせてしゃがみ込む。
「工藤君、また留守なの?」
「そうやねん。悪いんやけど帰って来るまで待たせてくれへんか?」
「……勝手にすれば?」
冷たい言葉とは裏腹に困ったように微笑んで自分を迎え入れる哀の姿に「ありがとうさん。ほなお邪魔します」と、平次は嬉しそうに笑った。





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