Prologue



 「どうして私が…」
 灰原哀は小学校に通いはじめてからすっかり口癖になってしまったフレーズを溜息とともに吐き出した。
読むとはなしに捲っていたファッション雑誌から目を上げると、同級生の小嶋元太が備え付けの大きな冷凍ケースからアイスクリームを選んでいるのが見える。
 「灰原ー、お前、どれにする?」
 ゴソゴソと中を掻き回しながら自分に向けられた暢気な声に「私はいいわ…」と小さく返す。
 「だったらお前の分もオレが食うぞー」
 「どうぞ」と肯定の言葉を言うや否や元太は嬉しそうに二つ目のアイスを選び始めていた。
 くるりと視線を向けると、少し古い店内に所狭しと並べられた陳列棚と大きな冷蔵庫、試飲ができるようグラスが並べられた黒光りのカウンターが見える。一番奥にあるレジスターの横に置かれたラジオからは少し古い歌謡曲が流れていた。
ここは駅前商店街の一角にある小嶋酒店。
しかし今、江戸川コナンがこの店内を覗いたらおそらく驚きのあまり声も出ないだろう。何故なら現在、ここでは元太と哀が二人で店番をしているのだから
……