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気がつくと他の49人と共にコナンは薄暗い空間にいた。注意深く周りを観察していると突然「コナン君!!」と、聞き慣れた声で呼ばれる。
「!?ら、蘭姉ちゃん!?どうしてここに…?」
「コナン君が心配だからでしょ!?本当は小学生対象のところを園子が気をきかせてくれたんだから!」
余計な事しやがって……と心の中で呟くコナンにまたしても聞き慣れた声が聞こえて来た。
「よーお!!」
「コナンくーん!!」
少年探偵団の三人である。
「おまえ達まで…!?」
「いやあ、ここまでたどり着くまで苦労したぜ!!」
「何だかんだ言ってもコナン君もゲームがしたかったんですね」
「ま、まあね……」
まさか殺人事件の事を調べるためなどと言える訳はなく、コナンは曖昧に笑ってみせるしかなかった。
「……でも、ボク達今催眠状態なのにそんな感じしませんね」
「夢みたい。自由に動き回れるなんて…!」
「……バーロー、その逆だぜ」
コナンが呆れ果てたように三人の方を見る。
「自由どころか視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚…すべてコンピューターに支配されてんだ」
「え?」
「そう…なんですか?」
その時、虹色の光が現れた。
<さあ、コクーン初体験のみんな、ゲームの始まりだよ!ボクの名前はノアズ・アーク、よろしくね>
どこからともなく声が流れる。コナンは気を引き締めたが子供達は「よろしくーっ!!」と無邪気に手を振っていた。
<今から5つのステージのデモ映像を流すから、自分が遊びたい世界を選んで欲しい。でも、一つだけ注意しておくよ。これは単純なゲームじゃない。キミ達の命がかかったゲームなんだ>
(オレ達の…命?)
コナンの顔が険しくなる。
<全員がゲームオーバーになっちゃうと、現実の世界には戻れなくなちゃうんだ。だから真剣にゲームをしなきゃね。たった一人でもゴールにたどり着けばキミ達の勝ちだ。それまでの間にゲームオーバーになっちゃった子もみんな目覚めて現実世界に帰る事が出来る。これがボクの決めたルール、理解してくれた?>
「どういう事……?」
蘭が不安そうに呟く。
<全員がゲームオーバーになっちゃった時は、特殊な電磁波を流して、キミ達の頭の中を破壊しちゃうからね。つまり、日本のリセットを賭けた勝負と言うわけさ。……現実の世界の声は、ここにいるみんなには聞こえないけど、今、大人から質問があったから答えるね。キミ達を見ていると、汚れた政治家の息子は汚れた政治家にしかならないし、金儲けだけ考えている医者の子供は、やっぱりそういう医者にしかならない。日本を良くするには、そういう繋がりを一度チャラにしなくちゃ>
(……)
その言葉にコナンはついさっきパーティー会場で会った4人の少年達の事を思い出していた。



一時、騒然としたコンピューター制御室はノアズ・アークに「日本のリセットとはどういう事かね?」と質問を投げかけた優作の言葉にしんと静まりかえった。しかし、その不敵な回答に小五郎が切れた。
「…いい加減にしろ!!人間の命を弄ぶ権利が、お前にあるのか!?」
<ないよね。…ヒロキ君の命を弄ぶ権利が大人になかったように……>
ノアズ・アークが非情に答える。
「優作君」
モニターに向かっていた阿笠の顔が険しくなった。
「確かにコクーンには膨大なエネルギーが蓄積されておるよ」
「……50人の脳を破壊するには充分な量ね」
哀の声も真剣だった。
「そうですか……」
優作は独り言のように呟くとスクリーンに映るコナンをじっと見つめた。



<さて、子供達がお待ちかねだから、そろそろゲームを始めよう>
ノアズ・アークは現実世界の声を無視するかのようにコナン達に語りかけた。モニターが現れデモ映像と共に解説がされていく。次々流れるデモ映像は本格的な物で、子供達は画面に魅せられているようだった。
<そして5番目は「オールドタイム・ロンドン」……>
それまで無関心にデモ映像を見ていたコナンの表情が険しくなる。
<ここではホラーっぽいサスペンスを楽しんでもらう。1888年のロンドン、現実には迷宮入りとなった、連続殺人事件の犯人、切り裂きジャックを君達の手で捕まえるんだ>
(やっぱり何かありそうだ。樫村さんを殺害した犯人の手がかりが……!!)
デモ映像を食い入るように見つめるコナンとは対象的に、少しずつ周囲の子供達がざわめき出した。
「みんながゲームオーバーになったら本当に死んじゃうのかな?」
「どうしてボク達がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ…」
「好きでお父さんの子供に生まれてきたんじゃないよ…!」
「私、とても無理。生き残れそうにない……」
「誰でもいいから生き残ってボクを助けてくれよー!!」
ついに泣き出す子供まで現れてしまう。
「みんな元気を出して!!勝負する前から諦めちゃダメ!!」
蘭が子供達を励ますように言う。
「そうだよ、たった一人ゴールに辿り着けばいいんだから!これから自分が生き残れそうなステージを選ぶんだ!」
「…チェッ、やるしかないよなあ」
コナンの言葉に最初に動いたのは諸星秀樹だった。その後に仲間3人が動くと、他の子供達も5つのステージの入り口へと分かれていく。
『オールドタイム・ロンドン』と書かれた入り口に足を向けたコナン達の前にいたのは秀樹をはじめとする4人の少年達だった。
「チェッ…お前らも一緒かよ?」
「足手まといにならないでよね!」
早速絡んで来る秀樹と清一郎に元太達も黙っていない。
「それはこっちのセリフだっての!!」
「そうよ、私達少年探偵団は普段からいろんな事件を解決しているんだからね!」
「コラコラ、喧嘩しない!!」
蘭が二つのグループの仲を取り持つように言う。
<各ステージには、お助けキャラがいるから頼りにするといいよ。では、ゲームスタート!!>
「さあ、行こう!!」
コナンの言葉を合図に蘭、少年探偵団、4人の少年達は更に暗い入口へと歩き出した。