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「博士の発明品、ゲームの世界ではまったく使えないみたいね」
阿笠とともにモニターを覗き込んでいた哀が呟いた。
「コクーンは人間の五感を司る事しか出来ないからのう。予想はしておったが……」
「ところで工藤先生がゲームの監修をしたのならどうすれば攻略出来るかご存知なのでは?」
小五郎が珍しく冴えた事を言う。
「ええ、彼らと交信さえ出来れば指示を与えて助けてやる事は出来ますが……出来ますか?博士」
「何とかやってみよう」
阿笠がキーボードを操作し始める。
(……しかし、ノアズ・アークが先の先まで読んでいるとしたら……)
「博士、ここは頼みます。私は現場へ」
「このステージは楽勝だ」と豪語する小五郎とは対象的に優作は厳しい表情でコンピューター制御室を後にした。



「……ったくう、犯人を捕まえろったってどこを探せばいいんだよ!?」
諸星秀樹がふてくされた表情で呟く。
コナン達9人はジャック・ザ・リッパーの犯行現場から少し離れたガス灯の明かりがついた石畳の橋の上にいた。
「朝になるまで待つしかありませんね」
「ああ、下手に動くのは危険だからな」
「寒い……」
歩美が心細げに呟くと腕をさする。
「これを着ろよ」
コナンは自分の上着を脱ぐと歩美に渡した。
「うわ〜、いいの?ウフッ、あったか〜いv」
歩美の笑顔に一足違いで上着を渡し損ねた光彦ががっくり肩を落とす。
「蘭お姉さん、これを……って、着られませんよね」
「じゃ、これ着ろよ」
元太が自分の上着を脱ぐと蘭に差し出す。
「えっ?それじゃ元太君が……」
「オレは光彦と違って暑がりだから平気だよ!」
「ありがとう」
蘭はにっこり微笑むと元太から上着を受け取った。
その時、コナン達の耳にどこからともなく聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「聞こえるか?コナン君、わしじゃ」
「博士!?聞こえるよ!!」
「よく聞くんじゃ!そのステージでは傷を負ったり警官に補導されたりするとゲームオーバーになるぞ。今、君達がいる場所はイーストエンドのホワイト・チャペル地区じゃ。そこからお助……キャラのい……ベイカー・ストリートまで……」
次第にノイズが酷くなり、ついに声が聞こえなくなる。
「どうしたの、博士!?聞こえないよ!!」
コナンが叫んだ瞬間だった。突然、9人のいる橋がガラガラと音をたてて崩れ始めたのだ。
「うわっ!!」
「キャーッ!!」
悲鳴とともに走り出す。
「うわあああっ!!」
一番後ろにいた菊川誠一郎が足場を失って橋から落下した。
「!?」
コナンがとっさに引き返すと誠一郎の腕を掴む。
「くうーっ!!」
さすがに小学1年生の力では誠一郎を引き上げる力はない。
「コナン君!?」
いち早く事態に気づいた蘭が戻ってきてコナンを手助けする。その周りにはいつの間にか少年探偵団3人の姿もあった。
「コナン、頑張れ!!」
「そーれ!!」
五人の力が誠一郎を何とか橋の上へ引っ張り上げた。
「危なかったね、良かった…!」
蘭がそっと声をかけるが、誠一郎は息が上がってしまい何も喋れない状態だった。
「……」
秀樹達三人はその様子をただ呆然と見つめていた。
「……博士の声、聞こえなくなりましたね」
「ゲームの世界はすべてノアズ・アークが支配しているんだ。交信を切断されたんだろう」
「じゃあ、ボク達、どうやってジャック・ザ・リッパーを捕まえればいいんですか?」
「そうだな、まずはお助けキャラに会いに行くのが賢明だろうな」
「お助けキャラって誰なんだよ?」
「博士がベイカー・ストリートって言ってただろ?それにさっき警官がレストレード警部に連絡だって話していたし……この二つの言葉から推理すればお助けキャラはシャーロック・ホームズに間違いない!」
「じゃあ、この世界は現実と小説が混ざっているって事?」
「うん、多分」
「お助けキャラがホームズ?」
「彼がいれば百人力ですね」
「このステージは頂きだぜ!!」
少年探偵団の三人が一気に目を輝かせた。