14



「ベイカー・ストリート、221番地のB……ここね、コナン君?」
「うん、蘭ねえちゃん」
ホームズの自宅前までやって来ると、一行を代表して蘭がドア・ノッカーを叩く。
「ここにあのシャーロック・ホームズが住んでるのか……」
「ああ、ワトスン博士と一緒に借りている下宿さ」
コナンが元太に説明をしているとドアが開き中から一人の女性が顔を出した。年齢は五十歳くらいだろうか。髪をアップにしてロングドレスを着ている。おそらくホームズの大家にあたるハドソン婦人であろう。
「こんな遅くにどちら様?」
「あ…あの、毛利蘭といいます。ホームズさんにお会いしたいんですけど……」
「ホームズさんとワトスン博士は出張でいませんよ」
「……出張?」
「ええ、ダートムーアという田舎に」
「……ダートムーア?すみません、今日は何月何日ですか?」
二人の会話にコナンが割って入る。
「9月30日よ、坊や」
「9月30日…!?『バスカビル家の犬事件』か!?」
「どうしたの?コナン君?」
蘭が訳が分からないと言いたげに呟く。
「ホームズとワトスン博士は今、事件でロンドンを離れているんだ」
「ええっ!?」
「それじゃお助けキャラがいないって事ですか?」
「どうするの、コナン君?」
少年探偵団が一斉にざわめく。
(……おい博士、どーなってんだよ……?)
コナンは思わず霧で半分隠れた月を仰いだ。



優作が次に向かったのは地下一階にある総合警備室だった。パーティー会場に設営されている監視カメラの映像はここですべて管理されていると聞いたからだ。
「すみませんが犯行時刻前後のビデオ映像をお願いします」
「分かりました」
本来なら一般人に見せるはずはないであろうが、その係員は優作の事を知っていたらしくすんなり応じてくれた。
その時、ポケットの携帯電話が鳴った。
「はい、工藤です……博士、どうかしましたか?」
「我々はノアズ・アークを甘く見とったようじゃ。ホームズもワトスンもベイカー・ストリートにはいなかったよ」
「やはり先を読まれましたか……」
予感が当たったか……と優作は心の中で呟いた。
「入力した覚えのないアコーディオンを弾く妙な少年まで現れるし、前途多難じゃ……」
「阿笠さん、ちょっといいですか?優作君と話したい事が」
「替わりましょう」
阿笠が目暮に携帯電話を渡す。
「おい、優作君、君が考えたゲームはどういうストーリーだったんだね?」
「プレイヤーはシャーロック・ホームズと協力して切り裂きジャックの正体に辿り着き、連続殺人鬼は不治の病に冒された貴族だったという結末です」
<……ハハハハハ>
突然、不敵な笑みが聞こえて来た。
<もっと面白いエンディングを用意してあげたよ。楽しみにしているんだね>
「くっそー!!子供達が勝ったら、オマエみたいなコンピューターは粗大ゴミに出してやるからな!!」
小五郎が思わず叫ぶ。蘭の事が心配でたまらないのだろう。
声に出さなくとも優作とて思いは一緒だった。
(頑張れよ、新一……)



親達が心配し、脱落者が出る度に悲鳴が上がるコクーン会場をよそにトマス・シンドラーは一人ほくそ笑んでいた。
(もっとだ…もっと早くゲームオーバーになってしまえ!!切り裂きジャックの正体に子供達が辿り着いたら私は終わりだ……!!)



一方、シンドラーの態度に哀は不審を抱いていた。もしこのコクーンのプレミアで事故でもあろうものならシンドラー・カンパニーにとっては大きな打撃のはずである。普通に考えれば必死になってノアズ・アークの暴走を止めようとするのではないだろうか?
それに優作が目暮達にヒロキ・サワダの事や樫村の事を話していた時の彼の様子も気になった。
(……何かありそうね)
哀は阿笠には何も言わずこっそりコンピューター制御室から出て行った。