18



トランプクラブでの乱闘はまだ続いていた。
手近にあった椅子を襲って来る男に放り投げた元太の目にモラン大佐の銃口がコナンを捕らえているのが映った。
「コナーン!!危ねえっ!!」
考えるより先に身体が動いた。ガウンという鈍い音がしたかと思うと元太の身体に衝撃が走った。
「!!」
「げ、元太!!」
コナン達が振り向くと元太の身体は虹色の光に包まれていた。
「チェッ、格好良く助けようと思ったのにゲームオーバーか……コナン、ジャック・ザ・リッパー、必ず捕まえてくれよな」
「あ、ああ……」
コナンが力無く答えると同時に元太の身体が消えてなくなった。
「……遊びは終わりだ」
銃口がコナン、蘭、秀樹達三人を捕らえていた。
「捕まえて誰の手先か白状させようと思ったが必要なくなったようだ。この銃はホームズの物だからな!!」
(くそっ!どうすればいいんだ!?どうすれば……!?)
絶体絶命のピンチの中、コナンの目がクラブの隅でワインを抱えている男を捕らえた。確かあのワインは大佐がポーカーをやっていたテーブルの空席に置かれていた物だ。
(そうか!そういう事だったのか!!)
「さあ、誰が最初かな?」
大佐がじりじりと距離を狭めて来る。コナンは駆け出すとワインを持った男に飛びかかり、男が狼狽した隙にそれを奪い取った。そのまま一回転してテーブルの上に着地する。
「なっ…!?」
さすがの大佐も絶句した。
「ボクを撃ったらワインが割れちゃうよ!!」
ワインを自分の前にかざすとコナンは自信たっぷりに言った。
「フン、それはどういう意味だ?」
「カードをしていたテーブルの空席だよ。特別に装飾された椅子とそこへ来る人物のために用意されたグラスとワイン……それをヒントにそこへ来る人物を推理するとモリアーティ教授しかいないって事さ!!」
「……残念だがその推理は外れだな」
否定はするものの、明らかに大佐の声は震えている。
「じゃあ撃てば?教授のワインが割れてもいいならね!!」
「……」
コナンとモラン大佐の間に緊迫した空気が流れた。



Sビル8階コンピュータールームの前までやって来ると哀はこっそりドアを開けて中に入り込んだ。ここもやはり手薄のようで今は二人しかいない。
(さてと……)
哀は堂々と一人の係員に近付いて行った。
「……あれ、お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
「このメモを届けてくれって言われて来たの」
哀は係員にメモを差し出した。当然相手は哀の身長に合わせるため前屈みになる。
「どれどれ?」
係員の顔が近づいて来た瞬間、アトマイザーの睡眠スプレーを吹きかける。
「う……ん」
「おい、どうした!?」
仲間が急に倒れこんだのを見てもう一人の係員が近寄って来た。彼が続けて哀の試薬の餌食になったのは言わずもがなである。
二人の係員が安らかな寝息をたてているのを確認すると哀は早速一台のパソコンの前に座った。
「時間がないから急がないとね」



突然、コナンとモラン大佐、二人の緊張の糸を切るようにトランプクラブの正面入口が開いたかと思うと執事らしき長身の男が現れた。対峙していた二人も思わずそちらへ視線を向ける。
「モリアーティ様が皆さんにお会いしたいと申しております……」
「えっ?モリアーティ教授が!?」
蘭が驚いたように目を丸くする。それを無視するかのように男はさっさと外へと身体を向けてしまった。
「馬車でお待ちでございます。こちらへどうぞ……」
「お待ち下さい!!」
モラン大佐が驚いたように叫ぶ。コナンは事の成り行きに一瞬呆気にとられていた。大佐は引き続き何か言いたげだったが、
「モリアーティ様に逆らうおつもりですか?」
という執事の言葉に黙り込んでしまった。
コナン達5人は執事に案内され、外に止まっている馬車のところまでやって来た。
「皆様をお連れしました……」
「ご苦労…さて坊や、そのワイン、頂こう」
「はい!」
コナンはワインを執事に差し出した。その時、ほんのりと漂った香りにハッとする。
「モラン大佐と互角にやり合うとはさすがホームズの弟子達だ。で、私に何の用かな?」
「……ねえ、おじさんがモリアーティ教授?」
「いかにも……」
「あ、そっか、これってボク達を試しているんだね?」
「どういう意味かな?」
「もうお芝居は止めたら?おじさんはモリアーティ教授じゃないんでしょ?」
「な、何を言うの!?コナン君!!」
蘭が慌てたようにコナンの言葉を遮る。コナンはお構いなく続けた。
「だって、本物のモリアーティ教授はここにいるもの!!」
コナンが指さした方向には彼ら5人をここへ連れて来た執事の姿があった。
「そんな…!?」
「マジかよ!?」
蘭と諸星秀樹は思わず絶句した。