その夜、米花シティーホールは華やかな雰囲気に包まれていた。
政界や財界の大物の車が一台止まる度にあちこちでフラッシュが炊かれる。
間もなくここで体感シミュレーション・ゲーム、コクーンがプレミアを迎えるのである。ゲームの内容が一切明かされていない上、コクーンの登場でゲーム業界の地図が一挙に変わると噂されているだけあって、集まったマスコミの数は半端ではなかった。
「……ったく、テレビゲームの発表会ごときで物々しいったらねえな」
金属探知器検査を終えた毛利小五郎は携帯電話を懐に戻すと思わず呟いた。
「この発表会にこぎ着けるまで、産業スパイとか、色々暗躍したみたいだよ」
ゲームに興味はないものの、父、優作がこの発表会に出席すると聞いてネットで色々情報を探ったコナンだったが、結局、父が何にどう絡んでいるのかさっぱり分からなかった。
「……お、何だ?あれ!?」
元太が急に駆け出すと、1階ホールを覗き込む。
「あ、あれですよ!コクーン!!」
光彦も大声を上げる。
「やっぱやりてえよなあ……」
「無理だって言っただろ?」
コナンが呆れたように呟く。
そう、今日このゲームの体験者に選ばれたのは政界や財界の二世、三世といった小学生50人。財閥とは言え、急遽父の代役で出席した園子にそこまでの力を要求するのは無理な話だ。
「ちぇっ、つまんねえの」
「ほら、行くぞ、お前達」
小五郎に促され、コナン、蘭、少年探偵団はパーティー会場へ進んだ。



パーティー会場はさすがに人数ゆえか、ごったがえしているという印象だった。その上、隅に置かれた勇壮なブロンズ像が結構なスペースを占めているせいか、本来なら広いはずの空間を狭く感じさせる。
もっとも小五郎にはそんな事はどうでもいい事のようだ。
「おほーっ!!人がいっぱい!!酒もいっぱい!!」
すでに上機嫌でグラスを煽っている。
「お父さん、偉い人もたくさん来ているみたいだし飲み過ぎないようにね」
「わーってるって!!高い酒は悪酔いしないんだよ!!」
(そうじゃなくって……)
蘭の忠告もまったく無視されているようでコナンは蘭に同情した。
元太は元太で早速テーブルを陣取っている。
「なあ、ここって食い放題だよな?」
「ええ、多分……」
「ラッキー!!」
光彦の返事に満面の笑顔で食べ物にかぶりつく。
「おい、光彦、歩美も。食えよ、旨いぜ」
「……でも、本当にラッキーなのはあの子達の方だよ」
寂しげな歩美の表情の先を見ると、ゲーム参加バッジをもらっている小学生達の姿があった。
「警視副総監の孫、財界の実力者の孫、与党政治家の息子……日本の将来を背負って立つ二世三世が勢揃いって訳だ」
小五郎が皮肉まじりに呟く。
「まるで悪しき日本の世襲制が凝縮された光景ね……」
「……へっ!?」
自分の台詞を上回る強烈な皮肉に思わずその主を見た小五郎は哀の姿を見て絶句した。
「こうした世襲制と共に人間の過ちの歴史が繰り返される訳よ」
「灰原さん、何言ってるのか分からない……」
小学1年生としてはまったくもってその通りであろう歩美の台詞にコナンは焦って哀に耳打ちする。
「……オメエな、もっと子供らしい言葉で喋れって!」
「政治家の息子は政治家になる、頭取の息子は頭取になる、これじゃいつまでたっても日本は変わらないって事よ……」
(オイオイ…!)
コナンが哀の言葉を遮ろうとしたその瞬間。
「……アハハ!とか何とか昨日のニュースでいーっぱい言ってたよ!」
まさに小学1年生といった表情と仕草で哀が微笑んだ。
「はあ……」
その様子に「ませたガキだな」と言いたげに小五郎がひきつった笑みを浮かべる。
「……どう?これで」
何事もなかったかのように自分を見つめる哀にさすがのコナンも言葉を失った。