「蘭!ここにいたんだ」
「あ、園子……」
鈴木園子に声をかけられ、蘭は驚いて一瞬言葉を失った。今日の園子はいつもとまったく違う深紅のイブニングドレスを身にまとっていた。同性の蘭から見てもちょっと色っぽく感じてしまう。おまけに身につけているアクセサリーは素人の蘭から見ても高価な物である事が分かるものだった。
「ハーイ!ボーイズ・アンド・ガールズ!!」
一方の園子はまったく普段と変わりない口調でコナン達に話しかける。そんな親友の様子に蘭はホッとした。
「園子お姉さん、こんにちは」
「ご招待、ありがとうございます」
歩美、光彦が礼儀正しく挨拶をする。
「残念ながらゲーム参加権はないけど、ゆっくりしていってね」
「けどよお、せっかくだったらコクーンやりたかったぜ」
元太が諦めきれないように呟く。
「諦めな!立場が違うんだよ!」
元太を卑下するかのような台詞に振り向くとサッカーボールを手に一人の少年が立っていた。後ろに3人の少年を引き連れている。
「そもそもオマエら、ちゃんと招待されてんのか?」
「失礼でしょ!この子達はれっきとしたうちの招待客よ!」
「ほ〜う」
「これはこれは、鈴木財閥のご令嬢」
園子に改まって挨拶したのは3人のうちの1人だった。
「いいか?人間っていうのはな、生まれた時から人生が決まってんのさ!」
「そうそう、綺麗な服も着る人間を選ぶって訳!」
「選ばれなかった人間は、外から指をくわえて見てればいいんだよ!」
少年達の挑発的な台詞に最初に切れたのは気が短い元太だった。
「……この連中、すんげえムカつく!!」
「お父さん、ちょっと説教してやって!!」
蘭もさすがに切れたようだ。
「……ん?」
それまで酒を煽っていた小五郎は一瞬面倒くさそうな顔をしたが、娘の表情に迫力負けし、咳払いをすると少年達の方に向き直った。
「いいかね、少年達よ、人生をなめちゃいかんぞ!順調に見える人生にも落とし穴があるもんだ!君達も大人になれば分かる時が来る!」
半ば自分の台詞に酔いながら話を進めていた小五郎に、冷水を浴びせたのはリーダー格の少年だった。
「女房に逃げられたり?」
「ど、どこでそれを…!?」
「知ってるぜ、おじさんの事なら。眠りの小五郎って、眠っている間に女房が出て行ったからそういうあだ名が付いたんだろ?」
周りの少年達が一斉に大声で笑い出す。
「こ、このガキども!!」
「眠っている間じゃないわ!!」
小五郎が怒りに我を忘れ、その少年にまさに掴みかかろうとした瞬間を遮ったのは蘭だった。
「お父さんがトイレに行ってる間にお母さんは出て行ったんだから!!ね、お父さん!!」
フォローになっていない娘の台詞に小五郎は落ち込んだようにガクッと首を垂れた。
「おい、ミニゲームやろうぜ!!」
少年達はさっさと立ち去ってしまった。
「……ああいう子供達が親の仕事を継いで、これからの日本のリーダーになって行くんだと思うと、未来は絶望的だな」
思わず呟いたコナンに、「同感ね」と哀が小声で同意を示した。
「何だよ、あのむかつく連中!?」
元太が怒りが治まらない様子で園子に話しかける。
「最初に話しかけてきた、リーダー格の男の子が諸星秀樹君、警視副総監の孫よ。後ろにいた3人は菊川誠一郎君、江守晃君、滝沢進也君……だったかな?3人もいわゆるいいところのぼんぼん。4人とも11歳から12歳で、君達よりちょっと年上ね」
「そっか、それであの子達、ゲーム参加バッジを着けていたのね?」
「ま、そういう事ね。さ、気分を変えて楽しみましょ」
園子は蘭達に気にするな、とでも言うようにウインクすると、近くのテーブルへと促した。



「何するんだ!?」
「返せよ!!」
少年達のサッカーゲームを止めたのは、一人の男性だった。
「他のお客様の迷惑になる。遊ぶのなら、外に行きなさい!」
身体にボールを当てられる者、テーブルの上の食事やドリンクを倒される者等、少年達の行為に迷惑している者はたくさんいたのだが、誰一人としてその瞬間まで文句を言う事はなかった。彼らが誰の子供や孫か知っていたからである。
「誰だよ、おじさん?」
諸星秀樹はその男性に食ってかかった。
「コクーンの開発を担当した樫村と言います」
「じいちゃんの銀行が助けてやったから、ゲームを完成出来たんじゃん!!」
江守晃が加勢するが、樫村はお構いなく続けた。
「公衆道徳というものをお父さんやお母さんから教わらなかったのかな?それと、目上の人間に対しての話し方も」
「偉そうに!!」
「もうお金貸してやんないぞ!!」
「おじさん、私達のこと知らないんじゃない?」
「オレ達にたてつくと、明日にはクビになっちゃうかもよ」
4人の少年達も負けずに言い返すが、樫村の方が上手だった。
「……ではその前にキミ達をここからつまみ出すとしよう」
表情一つ変えず言い放つ樫村に、さすがの4人も相手が悪いと思ったらしい。
「い、行こうぜ……」
一瞬、樫村を睨むと、吐いて捨てるように呟き、その場を立ち去った。