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「哀君、どこへ行っておったんじゃ?」
米花シティーホールのコンピューター制御室へ戻ると阿笠が声をかけて来る。
「……工藤君、ジャック・ザ・リッパーの正体に辿り着いたみたいね」
哀は阿笠の質問を無視すると傍へ寄ってモニターを覗いた。
「あ、ああ……」
哀は工藤優作の方をチラッと見た。真剣な目でモニターを見つめている。息子の推理をじっくり聞いているのだろう。
(血は争えないわね……)
哀は思わず苦笑すると小さく肩をすくめた。



コナンが指さした方向には一人の若い女が座っていた。
「ええっ!?」
蘭と秀樹がまさかという目で見つめる。するとそれまで伏し目がちで微動だにしなかった女は不敵に微笑むと自分の右手を掲げた。
「薬指が…細い!!」
女は立ち上がると着ていたドレスを破った。元々細身の身体だったのだろう、破れた服の下には防刃着のような物を身につけている。目をカッと見開くと、そこにいるのは紛れもなく連続殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーだった。
「うわあーっ!!」
他の乗客達が一斉に逃げ出す。
「任せて!!」
蘭がジャック・ザ・リッパーに向かって行く。あっという間の出来事でコナンが制止する声も届かなかった。追いかけようとした瞬間、煙幕に覆われる。
「くそっ!窓を…!!」
「任せろ!!」
幸い秀樹が窓際にいたようだ。ゴオッという音とともに煙幕が晴れて行く。視界が戻った時、そこには蘭の姿もジャック・ザ・リッパーの姿もなかった。
「お、おい!!」
秀樹の言葉に振り向くと、乗客と車掌の姿まで消えてしまっていた。
(どういう事だ…!?)
コナンは言葉を失った。



「……さて、我々も樫村殺害の犯人を突き止める事にしましょう」
それまで黙ってモニターを見つめていた優作が目暮達の方に振り返ると口を開いた。
「えっ!?犯人が分かったのかね!?」
目暮が驚いたように叫ぶ。
「問題は犯人がどうやって凶器を用意したか?この米花シティーホールの入口には金属探知器が設置してあります。考えられるのは凶器は最初からこの会場に用意してあった物を使ったという事です」
「しかし、そんな物がどこに!?」
「パーティー会場にあったブロンズ像です。あの中の一体は短剣を握っています」
「会場には大勢の客がいたんだ!あんな物を抜いたら誰かに見られるぞ!?」
「会場の照明が落ちた時に抜いたんです。進行はあらかじめタイムテーブルで決まっていましたからね」
「しかし、短剣が無くなれば誰かが気付くんじゃないでしょうか?」
「偽物を置いたんです。おそらく段ボールにアルミホイルか何かを巻いて作ったのでしょう」
「じゃあ、今、ブロンズ像が持っているのは犯行に使われた短剣かね!?」
「ええ、先ほど鑑識の方にルミノール反応と指紋を調べてもらったところ樫村と同じ血液型の反応が出ました。柄の部分からは指紋も検出されました。あなたの指紋でしたよ、シンドラー社長!!」
優作の言葉に小五郎、目暮、白鳥の三人は驚いてシンドラーの方に振り返った。
「当然だろう。私の家から運ばれたブロンズ像なのだからな」
シンドラーが落ち着いて答える。その様子に優作は一本のビデオテープを取り出した。
「これは犯行時刻前後にパーティー会場の監視カメラが記録した映像です。幸い監視カメラは会場の至る所に据え付けられており、自由なアングルをダビング出来ました」
阿笠がビデオテープを受け取るとデッキにセットする。諸星秀樹がサッカーボールを蹴るシーンが映し出された。
「ご覧のように諸星少年が蹴ったボールはブロンズ像に当たり、短剣をはじき落とします。それを彼は拾い像の手に戻しました」
「…そうか!今映った短剣が本物ならば、少年の指紋も検出されるはず、しかし、短剣にあったのはシンドラー社長の指紋だけ!!」
目暮が合点がいったと言いたげに叫ぶ。
「フン、少年の後に私も触ったから彼の指紋が消えただけだろう」
「工藤先生!!」
その時、ドアが凄い勢いで開くと千葉が飛び込んで来た。
「見付けました!段ボールとアルミで作った偽物の短剣が地下のゴミ集積所に!!」
「千葉君、指紋は!?」
「工藤先生がおっしゃった通り諸星少年とシンドラー社長、二人の指紋がありました!!」
「!?」
シンドラーの顔に明らかに動揺が走った。
「偽物の短剣に少年以外の指紋があったとしたら、それは犯人以外には考えられません!」
「でっち上げだ!日本政府に抗議するぞ!!そもそも私には樫村を殺害する動機が無い!!」
シンドラーの台詞に優作はコナンが映るモニターを振り返った。自分の推理が正しければ動機はこのゲームの中に隠されているはずだ。
(新一…!)
優作は別の場所で真実を追う息子を思った。