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「ライヘンバッハの滝よ!コナン君!!」
ジャック・ザ・リッパーがコナンに向かってナイフを振り下ろそうとした瞬間、蘭は叫んだ。そして、ジャック・ザ・リッパーに向かって突進して行く。
「蘭っ!?」
コナンには蘭の意図が分からなかった。
「無駄だ!」
ジャック・ザ・リッパーが余裕で蘭の拳をかわす。ところが次の瞬間、彼女の強烈な蹴りが彼の首を捕らえていた。
蘭の得意技、後ろ回し蹴りだった。
「蘭っ!!」
コナンは思わず叫んだ。
後ろ回し蹴りは軸足に全体重がかかる。走行中の列車の天井という不安定な足場で今まで封じられて来たのだろう。
蘭はジャック・ザ・リッパーと差し違えるつもりで技を繰り出したのだ。
「バカなっ!?」
「はあーっ!!」
そのまま全体重をジャック・ザ・リッパーにかけていく。
「よせっ、蘭!!」
「くそーっ!!」
ジャック・ザ・リッパーの身体が列車から離れる。同時に蘭の軸足も空を切った。
「うわああっ!!」
谷底に落ちていくジャック・ザ・リッパーを確認すると蘭は目を閉じて重力に身を任せた。
(ごめんね、最後まで一緒にいれらなくて……信じてるから……コナン君……)
蘭の身体が虹色の光に包まれたかと思うと消えてなくなった……



「博士」
蘭がゲームオーバーするのを見た哀は決心したように口を開いた。
「これを工藤君のお父さんに渡して」
「これは?」
「博士にもらったDNA探査プログラムよ。一緒に樫村さんのデータのバックアップが入ってるわ」
「何じゃと!?」
「Sビルのコンピュータールームで見付けたの。ノアズ・アークが手伝ってくれたわ。そこにいるシンドラー社長とジャック・ザ・リッパーに繋がる決定的な証拠よ」
「哀君……」
「自分のした事の意味は分かっているつもりよ。……ありがとう、心配してくれて」
穏やかに微笑む哀に阿笠が「……分かった」と呟くと優作を呼ぶ。
「……そうですか」
優作はMOを受け取るとシンドラーの方に向き直った。
「……シンドラー社長、たった今ロンドン警視庁にいる私の友人から面白い物が届きました。ジャック・ザ・リッパーの二人目の犠牲者、ハニー・チャールストンの衣服から採取した血液データです。あなたが潔白だと言うのならハニーのDNAとあなたのDNAは合致しないはずです。DNA鑑定に協力して頂けませんか?」
「そ、それは……」
シンドラーが言葉に詰まる。
長い沈黙の後、シンドラーはフッと微笑むと独り言のように呟き始めた。
「あれは……ヒロキが私のコレクションを見に来た時の事だ。展示されていたあの短剣にヒロキは関心を示した……百年前、ジャック・ザ・リッパーの犯行に使われた凶器だと知って実験のいいデータになると思ったのだろう……ところが、短剣から検出されたハニー・チャールストンのDNAが私のDNAと一致すると言い出したんだ……私は恐ろしかった……いつかヒロキがジャック・ザ・リッパーはハニーの息子だと知ってしまうのではないかと……怖かったんだ……私の中に流れる恐ろしい血が……!!」
「殺人鬼の血がなんです!!世間の目がなんです!!どうして今のコナン君達のように戦おうとしなかったのです!!」
優作の台詞にシンドラーは黙ってうつむいてしまった。
目暮が哀れな殺人者をいたわるように肩を叩くと同行するように促す。シンドラーは黙って頷くと刑事達に囲まれコンピューター制御室から出て行った。
「……どうやら余計なお節介だったみたいね」
シンドラー達が出て行くと哀は苦笑した。
「工藤君のお父さんならロンドン警視庁に友人がいてもおかしくないものね」
「いや、このデータは後でコピーさせてもらうよ」
優作の言葉に哀は驚いた。
「え?でも……」
「確かにロンドン警視庁に友人はいるが、この短時間であんな昔の資料を送って寄こすなんて無理だよ」
「じゃ、じゃあ……」
「そう、これは紛れもなく君が見つけたデータだ。ただ、それを明らかにしてしまうと君は不正アクセス禁止法に触れる事になる」
「……」
「君の気持ちは嬉しいが君を犯罪者にしたらコナン君に怒られてしまうからね。後の事は任せなさい。友人に口裏を合わせてもらう事にしよう」
優作が優しく微笑む。哀は黙って頭を下げるとコンピューター制御室を後にした。