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「らあああんっ!!」
もはや遅いと分かっていてもコナンは叫ばずにはいられなかった。
(……くそっ!こうなったら何としてでも列車を止めねえと!!)
蘭だけではない。他の47人の命もかかっているのだ。
コナンは再び機関室の方へ走って行った。連結部分を覗き込むが子供二人の力ではどうにもなりそうにない。今になって何故ノアズ・アークが他の乗客や車掌、運転士を消したか気付き、コナンは苦笑した。
「……なあ、メガネ、オレ達おしまいかな?」
秀樹が力無く呟く。
「バーロー!諦めてたまるかっ!!」
強がってはみたものの果たしてどうしたらいいのだろうか?列車は確実に終着駅へと近付いている。おまけにスピードもどんどん加速しているようだ。
(……くそっ、どうすれば攻略出来るっていうんだよ、父さん!!)
その時、考え込むコナンを包み込むようにどこからか歌声が聞こえて来た。
<……ジャック・ザ・リッパーに気をつけろ、夜道でオマエを待ってるぞ……死にたくなけりゃどーするか?オマエも血まみれになるこった……>
(血まみれに……?)
コナンの頭に幼い頃の記憶が蘇る……



「……ったく、相変わらずだな、新一君は」
目暮警部補が呆れ果てたように呟く。
「すみません、どうしてもついて来ると行って聞かなくて……現場を荒らさないようにきつく言い聞かせますから」
いつもの事とは言え優作は苦笑いした。目暮は「頼むよ」と言うと別の部屋へ行ってしまう。
「さて」
手袋をはめると優作は現場を調べ始めた。床に被害者の血痕が広がっている。
「これは……?」
丹念に床を調べていた優作の目が鋭くなった。一見しただけでは分からないが微妙に違う二色の赤色が混じり合っている事に気付く。そして壁際に目を向けると、案の定それが置かれていた。
「……そういう事か」
「お父さん、もう何か分かったの?」
新一が目を丸くする。
「ああ、最初に発見された時点では被害者は死んでいなかったのさ。ほら、そこに赤ワインがあるだろう?そのワインで血まみれになったふりをしていたんだ。真犯人の口車に乗せられて被害者が加害者のアリバイを作ってしまった、という訳さ。新一、目暮警部補を呼んで来てくれないか?あと鑑識さんも」
「うん!」
新一は元気よく返事をすると目暮が行った部屋へ向かった。



(待てよ!赤ワイン…!?)
モラン大佐から自分を守ってくれたのはモリアーティ教授の赤ワインだった。モリアーティ教授の正体を見抜いたきっかけの一つもそのワインを渡した時だった。
(考えろ、考えろ……)
コナンは目を閉じた。
(血まみれ……赤ワイン……)
列車に飛び乗る直前に見た物を思い出し、コナンはハッと気付いた。
「そうか!そういう事だったんだ!!貨物車!!」
突然、列車後方に向かって走り出すコナンを秀樹は慌てて追いかけた。
「おい!!待てよ!!どういう事だ!?」
「いいから来い!!」
一番後ろに連結されている貨物車の天井を開けるとコナンは飛び降りた。思った通りそこにはワインが詰まれていた。
「おい、メガネ!!」
「説明している時間はない!!そこに掛けてある斧で赤ワインの樽を割るんだ!!」
「な…!」
「いいから急げ!!」
秀樹はそれ以上何も聞かなかった。言われた通り次々樽を割っていく。二人はあっという間に赤ワインの海の中にいた。
「オレが合図したら潜るんだ!!」
「お、おう!!」
貨物車の隙間から光りが差し込み段々明るくなって来る。列車が駅に入ったのだ。
「今だっ!!」
コナンは秀樹に合図すると赤ワインの海に飛び込んだ。
次の瞬間、強烈な衝撃に襲われる。しばし赤ワインの海の中を漂っていたコナンはやがて意識を失った。