「なあ、光彦、何だってんだよ?」
ふいにパーティー会場から連れ出され元太は不満そうに呟いた。
「元太君はまさかこのまま帰るつもりですか?」
「このまま…って、そりゃ、コクーンやりてえけどよお」
「これを見て下さい」
光彦が取り出したのはゴールデン・ヤイバーカードだった。
「ネットオークションではかなり高額で取引されています」
「だからそれが何なんだよ?」
「ゲーム参加バッジとこのカードと交換してくれないか交渉するんですよ」
「けどよお、オレ、今日持って来てねえし、お前、3枚しか持ってねえじゃん。コナンと灰原はどうするんだ?」
「ちゃんと用意してあるから、大丈夫v」
歩美がにっこり笑うとカードを2枚取り出した。



パーティー会場の司会が招待客をコクーン会場へと案内するアナウンスを入れると、三人は真っ先に出てターゲットを絞っていた。すると親と離れて子供達だけで行動している4人の少年達が目に入った。
「あの子達と交渉してみましょう」
光彦に促され、元太はそのうちの一人に声をかけた。
「な、なあ、ちょっといいか?」
「何だよ?」
一人が足を止めると、あとの三人もついて来た。
「じゃーん!!」
これ見よがしにゴールデン・ヤイバーカードを高く掲げる。
「すんげえ!!」
「ゴールデン・ヤイバーカードだ!!」
「プレミア付きのだぜ!!」
「欲しいーっ!!」
4人の少年達が一斉に声をあげる。
「ゲーム参加バッジと交換してあげてもいいですよ」
光彦が絶妙なタイミングで声をかける。
「でもなあ…」
「ゲームもやりたいし……」
「コクーンはこれからだって出来るけど、ゴールデン・ヤイバーカードは今を逃したらもう手に入らないかもよ」
歩美の言葉に少年達は複雑な表情で顔を見合わせた。



その頃、コナンは途中で合流した小五郎と共に事件現場へ向かっていた。父、優作は途中でマスコミに捕まってしまったようだ。
「目暮警部!」
小五郎がドアを開けると鑑識が去ったばかりの現場に目暮、白鳥、そして第一発見者と思われる係員の姿があった。
「おお、毛利君、君も来ていたのか」
またしてもこの疫病神め、といった表情で目暮が呟く。
「バルコニーで酔いを醒ましていたら、パトカーが見えたもので」
「そうか。害者はコクーンの開発責任者だそうだ。心臓をひと突き、凶器は持ち去っている」
コナンは目暮警部の話に耳を傾けつつ、床に捨てられたティッシュペーパーを観察していた。
(血を拭っている…よっぽど大切な凶器なのか残しておくと持ち主が分かってしまう凶器だったのか……?)
大人達の隙を窺って遺体に歩み寄る。こういう時子供の身体は便利だ。もっとも、高校生名探偵、工藤新一であれば止める者はいないであろうが。
「それにしても開発責任者がなぜこのような地下室で?」
「はい、樫村主任は人の出入りが頻繁なところは集中出来ないからといつも一人ここで……」
「なるほど」
遺体の横のキーボードを見たコナンはハッと目を止めた。
(RとTとJに血の跡がついている…!)
「あの……」
係員がおどおど口を開く。
「何でしょう?気がついた事があったらおっしゃって下さい」
「はい、実は不可解な事が一つありまして……ハードディスクのデータがすべて破壊されているんです」
「データが!?」
白鳥が興味深そうに目を見開く。
「分かったぞ!この殺人はライバル会社の破壊工作だ!」
小五郎が勝ち誇ったように叫んだ。
(やれやれ……)
コナンは溜息をついた。
「遅いんじゃない?だってコクーンはもう完成しちゃってるもの」
「こいつっ!!いつの間に!?」
つまみ出そうとする小五郎からサッと逃れるとコナンは続けた。
「ねえ、机のキーボード、ダイイング・メッセージじゃない?」
「何っ!?」
小五郎、目暮、白鳥が目の色を変えた。
「キーに血が!!死の間際に押したようです!!」
「RとTとJ……!?」
「JRとJTだと……電車とたばこ……?」
トンチンカンな推理をする小五郎を横目にコナンは一人考えていた。
「RTJ、TJR、TRJ、JTR……JTR?」
コナンの頭にある考えが浮かんだ。
「百年前のロンドン……まさかっ!?」