少年探偵団の三人は頭を悩ませていた。結局、最初に手に入れた4個のバッジしか交換成立しなかったのである。
「ねえ、もう時間がないよ」
「どうするんだ、光彦」
「困りましたねえ……」
光彦はうーんと手を組んだ。
「仕方ありません。コナン君と灰原さんにはジャンケンでもして決めてもらいましょう」
ちょうどその時、哀が蘭、園子達とパーティー会場から出て来た。
「あら、あなた達、こんな所にいたの」
「遊んでいた訳じゃねえぞ」
元太がゲーム参加バッジを哀に差し出す。
「ほら、手に入ったぞ!」
「おやおや、たいしたもんだこと」
園子が目を丸くする。
「せっかくだけど私はいいわ」
「何だよ、付き合い悪ィな」
「……その様子だとトレードに成功したのは4つだけなんでしょ?」
図星の台詞に元太が言葉を失う。
「私はゲームそのものよりプログラムの方が興味あるし。好奇心旺盛な江戸川君に譲るわ」
「灰原さん、どうして4つしかないって分かったの?」
「円谷君のポケット…1枚残っているじゃない?」
「あ……」
哀の視線の先を見るとゴールデン・ヤイバーカードの角が申し訳なさそうに姿を見せている。
「じゃあ、これはコナン君の分ですね」
「蘭お姉さん、コナン君は?」
「え?てっきり元太君達と一緒だと思っていたんだけど」
三人は顔を見合わせると首を横に振った。
「……もう!お父さんと二人、どこ行っちゃったのよ?」
「まあまあ、そのうちひょっこり現れるわよ。さ、移動しましょ」
園子の言葉に蘭、少年探偵団はコクーン会場へと向かった。



コクーン会場はゲーム開始時間が近づいて来た事もあって子供達の興奮が高まって来ていた。
そしていよいよ選ばれた50人の子供達がステージに上がって行く。
園子に連れられ、蘭、少年探偵団達が会場へ入って来た時だった。
「……ん?あれ、コナン君じゃない?」
「えっ?」
確かに並んでいる子供達の中にコナンの姿がある。
「どうしてコナン君がゲーム参加の列に…?」
さすがの蘭も驚いた。
「あいつまた一人でやるつもりだったんじゃねえか?」
「ありえますね。抜け駆けは彼の十八番ですから」
「じゃあ、このバッジは灰原さんの分だね。良かったね、灰原さん…え?」
歩美が振り向くと哀の姿はなかった。
「どこ行っちゃったんだろう?」
「おい、もう始まっちまうぜ。どうする?このバッジ?」
「誰かやりませんか?何て言ったら暴動が起きかねませんし……」
「それなら蘭に譲ってあげれば?」
園子が三人の会話に口を挟む。
「え、園子、私は別に……」
「気になるんでしょ?あの子の事が。保護者として」
「でも…今日は小学生が対象でしょ?」
「まあ、任せておきなさいって」
園子はウインクすると会場隅にいる若い男性に近寄って行った。
何を話していたのか数分後ご機嫌な顔で戻って来る。
「大丈夫よ、蘭」
「え?」
「さっきの人、コクーンの広報担当者なの。体験者の中にあの眠りの小五郎の娘がいたらいい宣伝になるんじゃない?って言ったら即OKくれたわ」
「もう、園子ったら……」
蘭は苦笑いすると元太からバッジを受け取った。



いよいよコクーンが始動された。50名の参加者とホストコンピューターを結ぶ作業が無機質な機械音声で行われていく。
「ゲーム、スタート!!」
トマス・シンドラーの合図にステージ中央から強烈な閃光が放たれた。
(あるはずだ。このゲームの中に殺人事件の謎を解くカギが……!!)
まぶしい光に包まれながらコナンは気を引き締めるように心の中で呟いた。