Prologue



NYタイムズ誌のその日の一面は時の大統領の雄弁演説でも、前日、NYで起こった殺人事件でもなかった。一面を割いたのはマサチューセッツ州に住む天才少年、ヒロキ・サワダが自宅兼仕事場のベランダから身を投げたというニュースだった。
通常、このようなニュースがNYタイムズの一面を飾る事は稀であろう。
確かにヒロキ・サワダはIT産業界においては世界有数の大企業の社長、トマス・シンドラー社長の養子であり、10歳という若さでマサチューセッツ工科大学に通う大学院生だった。そして皮膚や血液のデータからその人間の先祖を突き止める事が出来るDNA探査プログラムを開発した事で一躍世界中にその名を轟かせた人物である。
しかし、マスコミが騒ぎ立てた原因は他にあった。
当時彼は1年で人間の5歳分成長するという人工頭脳の開発を試みていたのだ。ノアズ・アークと名付けられたそれは人類史上最大の発明になるだろうと言われていた。それ故か産業スパイの暗殺、シンドラー・カンパニーを造反しようとして殺された等、色々な噂が流れたのである。その上、IT業界の間ではとあるプログラムがシンドラー・カンパニーから流出したという噂までまことしやかに流れ、業界に衝撃をもたらした。
しかし、この事件も公式に自殺と発表されてからは時の流れの中でその後、取りたてて騒ぎたてられる事もなくなった。
そして2年後……