Prologue



絶体絶命とはまさにこういう状況を言うのだろう。
組織の本拠地に乗り込みジンを追い詰めたまでは良かった。が、今、彼の右腕には毛利蘭が羽交い締めにされている。
「チェックメイトだ」
ジンは唇の端に冷たい笑みを浮かべた。
「逃げて!コナン君!!」
「逃げればこの女の命はないぞ。さあ、どうする?」
「くっ…!!」
頭に銃口を突きつけられている蘭の姿に江戸川コナンが思わず立ちつくしたその時だった。
「あなたの思い通りにはさせないわ」
薄暗い空間に凛とした声が響く。いつの間にか灰原哀がジンの後ろに立っていた。その手には拳銃が握られている。
「くくく……シェリー、まさか貴様がそんな姿になっていようとはな」
「その女性を放して」
「そんなにこの坊やが好きなのか?」
「……ええ」
緊迫した雰囲気の中、哀の思わぬ言葉にコナンは驚いた。
「組織の中で唯一俺の思い通りにならなかった女がこんな小僧に心奪われるとはな。このオレがお前にやられるとでも思っているのか?」
「元から刺し違えるつもりよ」
「いい覚悟だな」
哀がジンとの距離をじりじりと詰めていく。
「やめろ!灰原!!」
哀の拳銃が火を噴き、弾丸はジンの左肩をかすった。利き腕の肩を撃たれたジンは凄い目で哀を睨む。
その一瞬を空手の達人である蘭が逃すはずはなかった。
「はあーっ!!」
肘鉄を食らわせ、自由になった身体が宙を舞うと必殺の後ろ回し蹴りが炸裂する。
いつもなら相手はノックアウトのはずだった。
「ダメッ!!」
哀の絶叫と銃声が同時に響く。次の瞬間、緋色の鮮血がコナンと蘭の視界を覆った。
「灰原ッ!!」
「哀ちゃん…!?」
「ジン、貴様…!!」
コナンはどこでもボール射出ベルトからサッカーボールを噴出するとジンめがけて最大出力で蹴った。ボールがジンの顔面を強打する。が、彼の動きを止めたのはコナンが蹴ったボールではなかった。ふいにどこからか銃声が聞こえたかと思うとジンが胸を押さえて倒れたのである。
「な…!?」
コナンが慌ててジンの元へ駆け寄ると弾丸はジンの心臓を貫いていた。
(かなりの使い手だ。しかし一体誰が……!?)
「おーい!工藤!!」
聞き慣れた声がしたかと思うと服部平次がやって来た。変わり果てたジンの姿にさすがの平次も絶句する。
「……プロの仕業やな」
「ああ」
「組織のトップは捕まえたんやし後は勝手に崩壊していくちゃうんか?が……コイツを生け捕りできへんかったんはちょっと痛いなぁ」
「……」
「コナン君!!服部君!!」
沈黙する二人のもとへ蘭が駆け寄って来る。その腕の中には血まみれになった哀の姿があった。
「何してるの!?早く救急車呼んで!!このままじゃ哀ちゃんが死んじゃう……!!」
蘭の絶叫にコナンはハッと我に返った。すでに哀は意識を失っている。
三人のもとへ警察や救急車が到着したのはそれから10分後の事だった。