「はい、解毒剤」
風邪薬を差し出すような口調とともにテーブルの上に置かれた薬瓶に江戸川コナンは目を瞬いた。
「って……試作品か?」
「何寝ぼけた事言ってるの?完成品に決まってるじゃない」
不満そうに顔をしかめる哀にコナンは「そっか、あれから一ケ月近く経ってんだよな……」と独り言のように呟いた。
日本警察にFBI、CIAやインターポールの捜査官が合同で立てた黒ずくめの組織壊滅作戦。その作戦に見た目は小学生のコナンと哀が加わる事が出来たのはコナンの父、優作とFBI捜査官、ジェイムス・ブラックの進言に他ならなかった。水面下の工作が成功し、巨大な組織を修復不可能な状態まで追い詰める事は出来たものの、その代償は大きかった。何人かの捜査官は命を落とし、多くの関係者が大なり小なり傷を負った。
コナンもまたジンと対峙した際に怪我を負ってしまったが、10日間の入院で済んだのは運が良かったとしか言いようがなかった。
一方、哀はジョディ捜査官の手を借りAPTX4869のデータを離れた場所で待機していた阿笠の元へ転送するのに成功した。そのデータを元に作り上げた解毒剤こそ今まさにコナンの目の前に置かれた薬瓶に入っている二つのカプセルだった。
「あなたが退院して今日で二週間……そろそろこれを飲んでも大丈夫だと思ったから呼び出したよ?あんなに解毒剤を欲しがっていたあなたの事だもの、もっと喜んでくれると思ってたわ」
「悪ぃ、組織の事が片付いてから時間の感覚が狂っちまって……」
コナンは薬瓶を手に取ると「そっか、遂に完成したのか……」と感慨深そうに瓶の中のカプセルを見つめた。
「あなたの準備が出来次第『江戸川コナン』の転校手続きをするって博士は言ってるわ。あなたのお母さん、今、日本にみえるんでしょ?」
「あ、ああ。それはそうと……なあ、灰原」
「何?」
「薬が二錠あるって事はオメーも元の身体に戻るのか?」
「あなたの身体が安定するのを待ってね。あなたと違って『宮野志保』には待っていてくれる人なんかいないし、正直、随分悩んだんだけど……私の使命はAPTXの存在を完全に葬る事。そのためには『灰原哀』というこの世にいないはずの人間が存在する事も許されないでしょ?」
「そっか……」
「何か不都合でも?」
「いや……ただ博士が寂しがるような気がしてさ。なんつーか……博士とオメー、もう本当の親子みたいだろ?だから……」
「あら、私、博士の家を出るなんて言ったかしら?」
「え…?」
「本当はすぐにでも日本を発ってどこかの研究所に勤めたいところなんだけど……解毒剤の開発者としてあなたの経過を半年くらいは見守る義務があるし。博士には申し訳ないけどしばらく居候させてもらうつもりよ」
「そっか、そうだよな……」
コナンは「ハハ……」と乾いた笑いを浮かべると瓶の中のカプセルに視線を戻した。
「これで……やっと戻れるんだな……」
「随分待たせちゃったわね。進学の方は問題ない?」
「ああ、何とかな」
「そう……」
「んじゃオレ早速母さんに連絡すっから。ありがとな、灰原!」
満面の笑みで阿笠邸のリビングを後にするコナンの後姿に哀は「さよなら、江戸川君……」と小さな声で呟いた。
Misschien Morgen

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