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プロローグ



 最近、『米花町のレオナルド・ダ・ヴィンチ』こと阿笠博士の様子がおかしい。
 クリスマスを控え、生来のイベント好きの血が騒がないはずがないのだから、阿笠が落ち着き無く動き回っている事は不思議ではない。しかし今年の彼は例年とは少し様子が違うようである――
 
 話は12月初旬に遡る。
 23日に少年探偵団とクリスマスパーティー、翌24日の昼過ぎには恋人が待つアメリカ行きの飛行機に乗るというのが今年の阿笠のクリスマスの予定だった。12月に入り、クリスマスまでの期間も楽しめるよう同居人の少女のために大きなアドベントカレンダーを壁にかける彼の背中に「博士、お願いがあるの」と声をかけて来たのはその少女だった。
 その後、阿笠邸ではクリスマスパーティーとアメリカ旅行の準備に追われながらも、時間を作っては研究室で何やら熱心に机に向かう阿笠の様子を少女が気遣わしそうに見つめていた。

 それから更に数日後。少女が買い物に出掛け、阿笠が一人作業をしていると研究室のドアが遠慮がちにノックされた。慌てて発明品を机の引き出しに押し込み、ドアを開けると隣の高校生探偵が神妙な顔をして立っていた。
 「何じゃ?哀君なら留守じゃぞ」
 その言葉に安堵したように青年が笑顔を浮かべる。
 「実は博士に頼みがあってさ」
 
 すっかり多忙になってしまった阿笠は今日も地下の研究室に籠っている。早く完成させなければクリスマスに間に合わない。はやる気持ちとは裏腹についつい自分の手の中にある小さな二つの機械を眺めてしまう。
 「……クリスマスが楽しみじゃのう」
 そう呟くと阿笠はニッコリと笑った。



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ver.哀ver.新一